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嘘だ。
絶対に嘘だろう。
昨夜のダメージを覆い隠し、瀕死の状態に陥っていたわたしのメンタルが今、ぐっちゃぐちゃのぼっろぼろに粉砕され散りと消えた。
『倒産しました』
勤めていた会社の入り口。
乱雑に千切れたガムテープで止められている紙は、ねずみ色のシャッターに貼り付き事実を訴えている。
電車を乗り継ぎ……来ました。
いつもと同じだと、精神と脳に誤魔化しという武装まで施してやって来たんです。
それがこの仕打ちとは……何たるタイミングの悪さだ。
「マジかよ。夜逃げだってよ」
何度見ても間違いのない文字。
散って消えていたメンタルが騒ぎ立てる同僚の声によって、なけなしの形を取り戻す。
悲壮な呟きは、先月デキ婚したばかりの山田君だ。可哀想に……人の事を心配している場合じゃないが、誰かの不幸を喜べる神経は持ち合わせていない。
ふざけんな!出て来いよ!
と、夜逃げならいるはずもない社長に向けて、シャッターをガシャガシャ揺らし憤りをぶつける行為は分からなくもなかった。
……帰ろう。
銀行でお金を下ろし、消費者金融をハシゴして、借金を完済し帰途に着いたのは夕方だった。
相変わらず床にあるシーツを隅っこに蹴り飛ばす。倒産に対する八つ当たりなのか、情事に対する嫌悪感か、貯金を失ったことによる苛立ちなのか、考えるまでもない。
正直、全部に対してだ。
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