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3択のどれもが地獄でしかない
「パンイチノチジョ様、という名前ですね」
なんて可愛いらしい名前なんだ。
乙女に似合いの響きだと口々に囁き合う美丈夫達。
あのう……もしもし?
完全に悪ノリだったんですけども。
悪びれた様子もなく頬をピンク色に染めて、太陽顔負けの眩し過ぎる笑顔で口にするもんだから、ああ、夢の効果というものは恐ろしいなと理解する。
「こちらも名乗らせて下さい」
互いにパンイチ同士だから、名前は痴女と変態どもでいいと思うけど、聞くだけ聞いておこうと頷いた。
しかしそれは、すぐに後悔することになる。
こちらは一人だが、あちら様は十数人もいるのだ。
進み出て一人一人自己紹介してくれるのはいいけれど、最初から長ったらしい名乗りをされて脳の処理能力が焼き切れた。
夢なのに妙に手が込んでいるぞ。
不思議な気持ちで受け付けない耳に流れ込む名前を素通りさせていたら、最後の美丈夫が目の前にやって来る。
髪は金髪。瞳は青。そしてやはりパンイチ。
逞しい胸筋とその様は別人なのに、ろくでなしにソックリな顔付きで口元が引きつった。
「パンイチノチジョ様。
私の名は、ロイド・ハイム・アルンゼン・ベンゲルタール・リリー・ザ・ポイセ・ムタワヌコフ でございます。以後、お見知り置きを」
優雅に片膝をつき、わたしの右手に重ねられた大きな手にビクッと竦む。
今まで一連の動作をやり過ごしていたのに、このろくでなし顔に手の甲へキスをされるのかと思ったら拒絶反応が出た。
振り払うようにして手を引き抜くと、傷付いたような表情を浮かべる。
何か失礼があったのだろうかと、意味も分からず謝罪を述べられて、余計にイラつきが増した。
「謝るぐらいなら何であんなことしたの。
人を騙して傷付けて……あんたは最低のクズよ」
夢だけど。夢だからこそ。
現実に言えなかった文句を思い切り吐き出していた。
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