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「聞いていいでしょうか?」
「はい。なんなりと」
「もしかして身内の方がこちらにお務めしていたりします?」
「いいえ。私には弟がおりますが別の仕事についてますねぇ」
弟かぁ……年齢的に真上の男が兄であるはずがない。この人はどう見たって20代だし、弟さんは別の仕事らしいし……
艶やかな黒髪を、オールバックにきっちりと纏めている壮年の腹黒執事にソックリな性格だから、もしや身内かと疑ってしまった。
よくよく考えれば似ても似つかぬ風貌。
この屋敷でお目にかかるのは初めてだが、どうやらここで働いていると執事長の腹黒教育により、性格がねじ曲がってしまうのだろう。
「いま、何か失礼な事をお考えになりませんでしたか?」
「いえいえ、滅相もありませんよ。ところで、執事のヌノテフホフさんはどこへ?」
「ここにおりますが」
「あ、部屋に?」
そういえばここはどこだ。儀式の部屋から出た記憶がないので、僅かに動く頭で周囲を見渡しかけ……不意にゴキッと音がした。
おもにわたしの首らへんで。
「どこを探す気ですか。ここにって言いましたよね?」
「……ここ?」
「ええ、ここに」
「……あの、いま目の端で何かを捉えたんですけども」
「ああアレですか。どうぞお気になさらぬようにお願いします。それよりも、やはり喉を痛めているようなので、こちらをお召し上がり下さいませ」
「え……っんぐ!」
ムニッと頬肉を片手で掴まれて、口の中に何かをポイッと放り込まれる。舌の上をコロコロッと転がり得体の知れない物体は喉の奥へと消えてしまった。
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