プロローグ

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どうして 僕の頭は二つあるんだろう。 肩も胸も腹も背も、二つ。 腕も脚も四本。 いつから、 こんなことになったんだろう。 元に戻せないかと思って、 さっきから身体のあちこちを調べているから、 手は体液でべとべとに汚れてしまったけれど、 答えが見つからないんだ。 遠くで鋏の音がする。 ジャキッ シャキッ ジャキッ シャキッ あの鋏が、 僕の体を切り裂いて、 真っ二つにしたのかもしれない。 このまま元に戻らないのかもしれない。 この片方の僕は いずれ意思を持ち、発語するかもしれない。 人格を形作り、 心を宿すかもしれない。 そしたら、 僕とは別の命を持つ存在となり、 別々の人生を歩むことになるのか。 だとしたら、 〈お前は誰なんだ……?〉 片方の僕が、 薄っすらと眼を開いた。 そうか。 もう、僕の意思とは無関係に、 こいつは眼を開くのか。 そんなことって。 そんな、 僕から僕が離れていくなんて。 〈やめろよ、そんなの〉 片方の僕の眼を、指で隠した。 〈僕を見るな〉 すると、 片方の僕は、その両腕を動かして、 眼から、僕の指をはがした。 今度は、 彼が僕の眼に触れてくる。 〈やめろ〉 容赦なく触れてくる。 〈触るな〉 身体じゅうを、 調べるように触れ回してくる。 〈触らないでくれよ〉 体液でべとべとに汚れた指で触れてくる。 〈触らないで〉 その指で、僕の眼を塞いでくる。 鋏の音は鳴り止まない。 分離は止まらない。 僕は僕に 〈殺される―――〉
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