一枚目 「目覚め」

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男達が去ると涙が零れた。 右眼から流れ落ちた。 眼帯をしている左眼からは何も出ない。 涙を拭っていると、 少年も同じように目を擦り出した。 見ると、彼は左眼だけ涙を流していた。 〈どうして君が泣くの?〉 〈さあ、なんだこれ? 勝手に流れてくる〉 少年の涙は真っ直ぐに左頬を滑り落ち、 顎で玉になっていた。 彼は指先で自分の涙を拭い、 僕の左頬に擦り付けた。 〈お前の涙の半分を、俺がもらってしまったのかもしれない〉 彼の手首に刺さったチューブの番号が、目に入った。 〈イチ、って書いてある〉 〈ああ、イチだな。お前はニィだ〉 〈僕はニィ。僕の名前はニィでいいかな〉 〈ああ、いいと思う〉 〈君はイチ。今からイチって呼ぶよ?〉 〈いいよ〉 彼の瞳を、間近できちんと見た。 吸い込まれそうに澄んだ虹彩に、僕の影が映っていた。 なぜだろうか、 以前にも同じ場面を繰り返したような気になる。 懐かしい空気が鼻の奥を刺激する。 その日の日めくりは六月九日だった。 夜、エヌさんがガチャガチャと鍵を回してやってきた。 「本日は終了します。これより、明日になります」 と日めくりをはがし、六月十日になった。 そんな簡単なことで、一日は始まるのだと知った。
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