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100点
「いきなりだが、君たちには次のテストで100点を取ってもらう」
朝のホームルーム。それは、先生が連絡事項や出席をとる時間だった。青年は自分の耳を疑った。先生の口調がいつもと違うのだ。先生の首筋に汗が垂れている。くすんだ汗。
「これは願いではなく、命令だ」
初めて動揺する先生を見た。教卓に置いた手がそれを示していた。青年は怖くなった。先生は博識で、常に冷静。畏敬の存在なのだ。なのに、その姿が微塵も感じられない。頭の中に形作られていた先生の像が砕け、静かに闇奥へ落ちていった。教室は、驚くほどに静寂だ。
「理由を説明してください」
最前列に座る眼鏡の生徒が発言した。
「冴乃……」先生は苦々しい表情をした。「すまないが事情は説明できない」
先生の顎から汗が滴れた。
「事情を教えないのに俺たちが100点を取る義理はないんだが」
奥から大きく太い声が聞こえた。声の主は大柄。クラスの問題児だ。机に足を乗せ、悠々と構えていた。
「本当に申し訳ないと思う。だが頼む、100点を取ってくれ」
先生は歯を食い縛り、うなだれた。
大柄は、そのらしからぬ姿に面食らったようで、先生が教室を離れるまで目立った動きはしなかった。
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