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「これから緊急会議を始めるよ。みんな意見を出しあってくれ」
クラスには、やたらに皆を仕切りたいリーダー肌が何人かいる。先生の退出後、混乱に陥ったクラスメイトを束ねよう者がそれだ。
指揮を執る明朗君らは、皆に放課後クラスに集まって話そうと持ちかけた。あげく、誰もが強制的に椅子に座らされることとなった。今になって、持ちかけより、恐喝という言葉が明朗君の会話に含まれていたと、青年は思った。全員が集まったのはよかったが、予定がある者も多いようで、教室は全体的に落ち着かない。青年は隅の席で縮こまっていた。
誰かが息を吸い込む音がした。
「みんな、これは一大事なんだよ。静かにしよう」
これが地味で目立たない男だと、それはそれで無視されたりネタにされかねないが、女子であった。それだけではない。中学生離れした完璧な振る舞いから、女子からは羨望の的であり、男子からは慕情を寄せられる。八方好しの雨宮さん。例外に漏れず、青年も多少は気になる存在であった。現に、席が隣だったことに嬉しかったものの、緊張して多少縮こまっていたのは事実である。
「雨宮さん……」
中央に座る明朗君は、救われたように呟いた。
自分の話を聞かず、好き勝手談笑する皆に困窮していた明朗君。雨宮さんの言葉により、一旦は胸のつかえが下りたようだった。
━━雨宮さんが言うなら、とほとんどが順応に従い、いよいよ準備が整った。
「まず始めに、100点を取る理由について。先生は最後まで隠していたけれど、何か心当たりがある人はいない?」
明朗君の質問に、教室がしんとする。
「僕たちが考えたところで、それは一つの推測に過ぎません。この無駄な時間を、明日のテスト勉強に当てた方がいいと思いますよ」
不意に冴乃君が言った。
「でもさ、何の目的で100点を取るのか分からないまま勉強する方が、雑念が入って集中できないよ」
雨宮さんが立ち上がり反対した。冴乃君は雨宮さんを見て、呆れ顔で言う。
「100点を取る目的は十分にあります。自らの力を試し、更なる向上を図るための━━」
「まって二人とも。仲間同士で口喧嘩しても、何の特にもならない。落ち着こう」
明朗君が二人を見て、慌てて止めに入った。
「僕は意見を述べただけであり、それが勝手に反論してきたのに。そもそも仲間じゃ……」
冴乃君はぶつぶつとひとり呟いていた。雨宮さんは諦めたのか、静かに座った。
冴乃君は、雨宮さんを好意的に思わない数少ない人物だ。秘かに、雨宮さんのファンクラブが設立したという噂まであるが、青年も、そこまで雨宮さんに熱狂的にはなれなかった。
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