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青年は、好女と別れた帰り道、少し俯き歩いていた。今日だけで目まぐるしい動きがあった。明日のテストは、皆100点を取る気があるのか。青年は、先生の朝の姿を回顧して、自分なりの仮説を立てることしか出来なかった。
「あれ、天才君?」
後ろから、涼しげな声を聞いた。
「雨宮さん?」
声の元へ体を反らすと、まさかの雨宮さんだった。雨宮さんは小走りし、青年の隣までやってきた。予想だにしなかったこのシチュエーションに、青年は驚くばかりだった。
「僕の名前、知ってるの」
たかが一介の生徒の名前を雨宮さんが存知しているとは。
「当たり前だよ。一緒のクラスなのに、私そんなアホに見えた?」
「いやそんな━━」
「さて、それは置いといて天才君、率直に訊くけど、明日のテストどうなると思う」
唐突な質問であったが、青年は先程まで考えていた結論を、素直に話した。
「なるほどね。私が考えてたことと大体同じだよ。好女君と君は仲がいいからね」
「明日になるまで判然とはしないよ。あれ、友達と遊ぶんじゃなかったの?」
青年は、悠長に話をしていて大丈夫なのかと疑念を抱いた。
「家に帰ってからすぐ行けば間に合うよ。付き合ってくれてありがとう」
雨宮さんは手を振りながら、駆け足で走っていった。普段感じる雨宮さんの穏やかな印象は、近くで話していると、意外にも失われてるよう青年は思えたのだった。
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