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「吉助、お前百鬼夜行に出ろよ」
ニヤニヤと嫌らしい笑みを見せる狸が、同じく狸(こちらは少しおどおどしている)に声をかける。
「ボ、ボクには無理だよ。だって他の妖怪に声をかけられたら、どうしたらいいか分からなくなっちゃうもん」
一回りは体のサイズが大きい狸三匹に囲まれているのだ。おびえているらしく、上ずった声で、途切れ途切れの返事をする。
「お前やっぱりただの狸なんじゃねえの?ほら、狸君はさっさと村から出て行けよ」
「ボクだって化け狸だよっ」
「へー、じゃあもちろん参加するんだよな」
「え、それは……」
「やっぱりお前村から出て行けよ」
「……いいよ。参加するよっ。……でも、やっぱり……」
「話かけられたくないなら、『はぐれ』鬼にでも化けとけばいいじゃねえか」
「そっか。それもそうだね」
「じゃ、決まりな。ほら、三つ山を越えた先だぜ。さっさと行かないと、化け狸の吉助は遅刻魔です、って話題になるぞ」
「わ、わかったよ」
吉助と呼ばれた狸は鬼に化けると、一目散に森の奥へと駆けて行った。
「……行ったか?」
「行ったねぇ」
「ぷっ。あいつ本当に行きやがったぜ。せいぜいビクビクおびえながら過ごせってんだよ」
「あんな臆病者、この村にはいらないもんね」
「おうよ。まあ、あんな野郎は放っておいて、俺たちは狐どもをぎゃふんと言わせる方法を考えようぜ」
三匹の狸はすでに吉助のことは完全に忘れたらしく、いかに狐どもを驚かすか、という議論に花を咲かせていた。
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