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「そ、そろそろ着くはずなんだけどなぁ」
息も絶え絶えに、吉助は独りごちた。見事な赤鬼に化けた吉助だったが、しかしながらその巨体があだとなって、先ほどから余計な回避動作をしていた。慣れない体のサイズであるために、ついかなりの余裕を持たせながら枝をよけてしまうのだ。
それからしばらくして、ついに誰かの話し声を拾った吉助は、そちらの方に方向転換して、勢いそのまま、開けた広場らしき場所へ飛び出した。
「やっと着い…………へ?」
言葉を詰まらせた吉助は、そのまま呆然と立ち尽くした。
確かに声の主はそこにいた。もちろん、複数の存在がある。ただ、そのすべてが緑鬼だったのだ。
残虐なことで有名な緑鬼。しかもその存在が広場のあちこちに、と言うより、広場は緑鬼で埋め尽くされていた。
深緑の肌に、体に巻いた黄土色や灰色の布の上からでも分かる隆起した筋肉。そして、何よりもその鋭い目つきが、彼らを『緑鬼』たらしめていた。
そこまで確認してようやく、吉助は状況を飲み込んだ。
つまり吉助の早とちりであり、百鬼夜行は、妖怪の大行進などではなく、文字通り、百の鬼が行進する方の百鬼夜行であったのだ。
吉助は、彼にこれを勧めた仲間の狸たちに騙されたのだった。
(どうしよう、どうしよ……あ)
吉助は森を疾走し、勢いそのまま広場に飛び出したのである。当然緑鬼たちも何事かと振り返る。そのうちの一匹と、吉助は完全に視線が合ってしまっていた。
結果、吉助は逃げるという選択肢を失ってしまった。
(まずい、なんとかしないと……でも相手はあの緑鬼だしこのままだと間違いなく痛い目にでもだからといって逃げれば殺されてッ)
余計なことに思考を費やしているその間に、緑鬼たちは吉助の目前までやって来て、そのうちの一匹が吉助の肩をつかむ。
「……よう、おまえ『はぐれ』か?」
「へ……………はいぃ」
か細い声でつぶやく吉助に、一方の緑鬼たちは、ガハハッ、と笑いながら何度も吉助の背中を叩く。中には小さく溜息をつくものもいた。
吉助はまさしく、蛇ににらまれたカエルの気分だった。緑鬼が背中を叩くたびに、ビクッと背筋を伸ばした。
「それで、おまえはなんで急いでたんだ?」
最初に吉助の肩を叩いた緑鬼が、鑑定するような視線で吉助を見る。
「え、あの……緑鬼の皆さんが百鬼夜行をなさると耳にしまして、ぜ、ぜひ参加させてもらえないかと……」
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