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「あぁ、おまえは『はぐれ』なわけだし、集団に惹かれたわけか。んでも、それなら初めから暴力沙汰なんて起こさなければいいじゃねえか」
一匹で行動する『はぐれ』の鬼が、一般に群れの中で一方的な暴力行為を起こして離反された存在だというのは、妖怪たちにとっては周知のことだった。故にはぐれ鬼は基本的に短気かつ凶暴であり、鬼にかなわない狸などの妖怪は、はぐれ鬼に遭遇すれば一目散に避難するのが常識だった。
ただ、さすがは鬼の集団であり、はぐれ鬼を装った吉助に、少なくとも逃げ出す様子は見られなかった。
「い、いえ、自分は群れの頭にいちゃもんを付けられまして、それで群れから……」
吉助自身も、苦しい言い訳だと思った。ただ、少なくとも自分には一般的なはぐれ鬼は演じられそうになかったので、苦肉の策だった。
しばらく吉助のことを観察していた緑鬼たちだったが、やがて
「確かにお前、小心者そうだな」
などと朗らかに笑って、吉助の百鬼夜行参加を許可したのだった。
吉助は安堵と、それから絶望に肩を落とした。殺されなかったことはよかったものの、これから少なくとも百鬼夜行を終えるまでは、群れから抜け出せる気配ではなかった。
このタイミングでやっぱり参加しませんなどと言うのは、それこそ自分で首を絞めてもらいに行くのに等しい行為だった。
「おまえらぁ、休憩は終わりだぞ~。さっさと集まれぇ」
広場の中心あたりに立つ、ひと際大きな緑鬼が集合の号令をしていた。
吉助を取り囲んでいた緑鬼らも、吉助をせかしながら声の主の方へと進んだ。
日はまもなく沈むというころ合いで、山の姿もおぼろげになりつつあった。
緑鬼たちは地面に置いていた灯篭に火をつけると、それをもって、一匹、また一匹と列になって進んでいった。吉助も親切な緑鬼に教えてもらいながら、受け取った灯篭に火をつけて、列の最後尾あたりのところに並んで緑鬼たちについて行った。
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