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「なあ、あいつどうする?」
行列の先頭付近に、五匹の緑鬼の集合ができていた。彼らは若干の距離を置いて進みながらも、突然の来訪者についての話を進めた。
「下手なことをいうんじゃないわい。たとえ気が弱そうでも、あいてはあのはぐれ鬼だぞ。何をされるか分かったもんじゃないわ」
「でも向こうからすれば緑鬼の大群だぜ。下手な気は起こさないんじゃないか?」
「とにかく、ここまで来て台無しにされるなんてのは堪らん。あれはしばらくそっとしておくべきだな」
「それもそうか」
「とにかく、若いもんに変な気を起こさないようにと伝えておけよ」
「了解した」
一番若く見える緑鬼が集団から離れたかと思うと、その姿を茂みの中に消した。
後に残った四匹は、溜息をついたり深刻そうな表情で悩んだりと、それぞれだった。
「ほれ、お前らもさっさと持ち場に戻らんか。それと、重吾、分かっておるな?」
「はい、大丈夫ですよ。少なくともあいつの前ではぼろは出しませんよ」
「ならよい。ほら、さっさと行かんか」
一番高齢らしき緑鬼の言葉に、他の三匹もペースを落とし、あるいは列から少し離れながら、自分たちの持ち場へと戻っていく。
「あ、あの……さっきまであのあたりだけ、光がおかしくありませんでした?」
ああ、と凄みを利かせた緑鬼の声に一瞬戸惑った吉助だったが、そんなことよりも、と一念発起して気になっていたことを尋ねる。
現在、一行は下りに位置しており、中腹付近の開けたところに出ていた吉助の目には、はるか先にいる緑鬼が持っているのであろう灯篭の光が、不自然に一か所に集まっている様子が映っていた。
「ああ、あの辺りはお頭の位置だからな。何か報告ごとがあったんじゃねぇか?」
「そんなことより、お前珍しいな。ここまで気の弱そうなはぐれってのには初めて会ったぞ」
ははは、と吉助は乾いた笑い声をあげる。自分が化け狸であるというのは、ばれたら間違いなく殺されるであろう秘密なのだ。下手に嘘の上に嘘を重ねて行けば、話に矛盾が生じて、秘密がばれかねないと考えた吉助は、とりあえず誤魔化すしかなかった。
「と、ところで、皆さんどこに向かってらっしゃるんですか」
「あ?おまえそんなことも知らずに参加したのか?」
「……何せ皆さんの雄姿にくぎ付けだったものですから……」
「ははっまあいい。俺たちはな、今黒鐘山に向かってるんだよ」
「く、黒鐘山ぁ⁉」
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