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吉助の突然の大声に緑鬼は眉をひそめて見せたが、はっとなって口を手で覆った吉助を見て、訝しそうにしながらも話を進めて行った。
「あそこには化け狸の集落があるらしくてな。俺たちはそこに向かってるんだよ」
(まずいよ。黒鐘山って僕たちの村があるところだよ。どうしよう、早くみんなに……)
「おい、お前たち、何を話してやがる?」
「す、すいません、重吾さま」
「それで、何の話をしていた?」
「あ、はい。このお方が――」
「このお方?」
「あ……いえ、こいつが、行き先も知らずに参加したらしいんですよ」
「行き先をしらずに……か。おいお前、なんで参加している?」
「…へ?あ、いや、えっと……」
行き先のことで頭がいっぱいだった吉助は話を全く聞いておらず、突然自分に矛先が向いたことで、完全に思考が混乱していた。
「だから、なんで参加しているのかと聞いているんだ」
「は、はいっ。群れから追い出されてしまって旅をする中、一人でいるのが心細くなったからですっ」
「は?そんな理由で?」
「え?」
「い、いや、なんでもない。それで、行き先の話か」
重吾と呼ばれた緑鬼は、一瞬間の抜けたような顔をしたものの、すぐにゴホンッと咳払いをすると、再び元の重苦しい雰囲気を出し始めた。
「行き先は、黒鐘山だ。何分この集団で暮らすには食べ物が不足がちでな、今回はその調達というわけだ」
「そ、そうですか…………あの、ちなみにその食糧というのは?」
「化け狸どもに決まっているだろう。あそこにそれ以外の食料などない」
「そうですよね……」
「なんだ、お前は狸を食わんのか?」
「い、いえ、そんなことは、ない、です……」
うろたえる吉助を怪しく思ったのか、重吾という緑鬼は、吉助に顔を近づけて、スンスンとにおいを嗅いだ。
「あ、あの……」
「お前、鬼にしては血の匂いが弱くないか?」
「あ、いえ、……一人ではなかなか狩りが成功しなくて……」
「まあいい。とにかく、邪魔だけはしないでくれよ」
「は、はい」
なんでそこまで念を押すのだろう、という吉助の疑問をよそに、重吾という緑鬼は、そのまま行列の後ろの方に移動していった。
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