23人が本棚に入れています
本棚に追加
六
待ち合わせ場所に指定したのは、彼女の通う高校の、校門前だった。土曜日は休日で、部活にやってくる生徒しかいないが、若い男がいるのは珍しいらしく、チラチラとこちらを見てくる。
兄でーす、という顔をして、ヒカルは彼女たちと目を合わせないようにしていた。待ち合わせの時間を過ぎても、桃子の姿は見えず、にわかに不安になった。
十五分が過ぎたところで、息を弾ませて桃子が現れた。
「ごめん! お待たせしました……」
「いや、大丈夫。それよりも家は、平気?」
桃子は胸を張って、Vサインで勝利を宣誓した。
「言われたとおり、学年末テストの後の交流会の係で、話し合いがあるって言ったの。最初は嫌な顔されたけど、信者の人が援護してくれて……よかったあ、無事に来られて」
その信者は、もしかしたら黒田かもしれない。ヒカルは漠然と、そう思った。なんとなく、あの人ならば、すべてを知っていても知らなくても、桃子の境遇に同情して、そっと逃がしてくれそうな気がした。
(考えすぎかもしれないけど)
ヒカルが何やら考え込んでいる表情なのを気にしてか、桃子が控えめに、「あの」と声をかけてくる。はっとして、ヒカルは微笑み、「行こうか」と、彼女に手を差し伸べた。
「えっ……え?」
差し出された手の意図を読み切れずに、桃子は目を白黒させて、ヒカルの顔と手と交互に見比べた。不慣れな桃子の様子に、自分だってデートは初心者のくせに、ヒカルは余裕ぶって、彼女の手を強引に取った。
「ヒカルくん?」
「デート、っしょ?」
ヒカルの笑顔に、桃子は頬を赤くして俯いた。が、それも一瞬のことで、「うん!」と笑顔で大きく頷いたのだった。
最初のコメントを投稿しよう!