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 ファッションビルの中を、桃子はヒカルを連れ回した。こちらの店を見ていたと思ったら、次はこちらの店。でもやっぱりあっちの方がよかったかな、と引き返す。階数違いで店をまたいで往復するとなったときでも、ヒカルは文句ひとつ言わずに、彼女に従った。  桃子は洋服を、吟味していた。宗教をやっている家は全部そうなのか、教団施設には金がかかっていても、教祖である父は、家族に還元しなかった。小遣いをほとんどもらっていない彼女は、なけなしの貯金をすべて下ろしてきていたが、セール品になっていない洋服は、予算オーバーだ。  それでも諦めきれないとみえる洋服を、ヒカルは一着、彼女のために購入した。何度も体にあてて、「どうかなあ」とヒカルに尋ねたトップスだったが、桃子は結局、棚に戻していた。  彼女がトイレに行っている間に、ヒカルは会計を済ませた。戻ってきた桃子に、「はい」と手渡すと、目を丸くした。一度は拒絶する。 「悪いよ! こんな風に、連れてきてもらった上に、買ってもらうなんて」 「いいから。それ、気に入ったんだろ? 俺も、桃子にすげえよく似合うと思うし」  タグは切ってある。次に入った店で、桃子はセールになっていたスカートを一着購入し、試着室で着替えた。セーラー服ではない桃子は、少しだけ洗練された姿で、ヒカルの前に現れた。 「可愛い。似合ってる」  桃子の手を恭しく取って、「じゃあ次に行こう」と、ヒカルは時計を見て言った。 「次?」  彼女の中では、今日の計画は、買い物をするところで終わっている。せいぜい、クレープを食べたり、タピオカを飲んだりというところだろう。  ふふふ、とヒカルは笑う。大人のミステリアスさを出そうとしたのに、不気味なものになってしまった。 「サープラーイズ」  発音も英語っぽくしたかったけれど、失敗した。
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