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向かった、のだが。
「……ここは、どこだ……」
言われたとおりに進んだはずなのに、なぜか医務室は見当たらない。方向音痴なのは自覚している。この建物へも、ヒカルは自転車で何度も往復して、ようやく道のりを覚えたくらいだ。
そんなに広くはない地下だから、と高をくくっていたが、間違いだった。しかも、時間犯罪対策部は地上の通常勤務の警察官たちよりも、断然人数が少ないため、通りかかる人間もいない。
十分以上迷いに迷い、ヒカルはようやく、廊下で人を見かけた。
「あああ、あの!」
よかった、と声をかけると、二人組は顔を見合わせた。
「見ない顔だね」
先輩とはいえ、彼らはまだ若い。園田との面談の後だから、二人の話しやすそうな雰囲気に釣られ、ヒカルは少々ラフな敬語になる。
「あ、俺、今日から配属されました、奥沢光琉といいます」
ああ、君が新人か。
少数精鋭部隊のため、ヒカルのことは皆、聞きかじっているらしい。ヒカルの話し方に頓着することなく、背の高いスーツ姿の男が、気さくに尋ねてくる。
「それで、どうかした?」
「園田部長に、医務室に行ってパートナーに会うように言われまして。医務室ってどこにありますか?」
二人はさきほどと寸分たがわず、顔を見合わせる。なにこれデジャビュってやつか? とヒカルは思った。二人はテレパシーで会話をしたのか、ヒカルを蚊帳の外に、腹を抱えて笑い始めた。
「そ、そうか! 君、エリ―のパートナーなのか」
園田は相棒の名前を告げなかった。ヒカルは勝手に同性同士でしかコンビは組めないと思っていたので、先輩の口から告げられた名に、にわかに浮き立った。
エリー。エリーさん、か。
昨今、ハーフだのクォーターだのは珍しくもないが、ヒカルの知り合いには一人もいない。巷で見かける、外国の血が混じっていると思しき女性は、皆例外なく人目を惹く容姿をしている。きっと、エリーも美人さんに違いない。
年頃の男の妄想力は、逞しい。ヒカルの脳内では、すでにエリーのビジュアルが完全に浮かんでいた。背が高くて、すべてのパーツがはっきり際立っていて、強さを全面に押し出した感じだろう。
ついでに胸は、アダルト動画のセクシー女優たちに勝るとも劣らず。
でへへ、とにやさがったヒカルに、にまりと目を細めた先輩たちは、「あっちだ」と、ヒカルが行こうとしていたのとは真逆の方向だった。
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