ラブレター、百枚並べて

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 スマートフォンがチカリと光った。何度も、何度も。僕は通話ボタンを押して、スピーカーを耳に押し当てる。 「もしもし」  先輩は、何も言わない。 「もしもし、どうかされましたか」  それから十秒ほど経ってから、口にピーマンを咥えたままみたいな声色で、先輩は言った。 「目上の人を『きみ』呼ばわりするのは、失礼ではないかね」  それを聞いて、つい、鼻から息が漏れてしまった。 「笑ったな?」  先輩は、怒ったような、呆れたような、困ったような問い方をした。 「すいません。伝わってて良かったな、と安心したのと同時に、着眼点はそこかあ、って思っちゃって、つい」  やはり、先輩は面白い。まあお叱りの内容はごもっともだし、今までに僕は一度も先輩のことを『きみ』だなんて呼んでいないし、ちょっと無理があったかな、とは思ったけれども。 「で、今日の分の感想は無いのでしょうか」  僕が訊ねると、先輩はストローの先から発声しているような、細々かつイジイジとした物言いで、長ったらしく僕を責め始めた。 「遠回しかつ詩的すぎて、分かり難いし、読みにくい。それに、ルール通り摘まむと鍵括弧を読むことになるし、『お見事』とは言ってやれないね。そもそも、これじゃあ告白した後にどうしたいのか、目的やら何やらが見えてこない。もっと、こう…簡単に、端的に、誰にでも伝わる様に言い直せないの?」  その言葉で、僕はいよいよ吹き出してしまった。アハハハハ、腹の底から笑いが飛び出て止まらない。  仕方が無い。リクエスト通りに言い直そう。僕は深呼吸をすると、声を張って先輩に告げた。 「好きです。僕と付き合ってください」
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