6人が本棚に入れています
本棚に追加
/10ページ
スマートフォンがチカリと光った。何度も、何度も。僕は通話ボタンを押して、スピーカーを耳に押し当てる。
「もしもし」
先輩は、何も言わない。
「もしもし、どうかされましたか」
それから十秒ほど経ってから、口にピーマンを咥えたままみたいな声色で、先輩は言った。
「目上の人を『きみ』呼ばわりするのは、失礼ではないかね」
それを聞いて、つい、鼻から息が漏れてしまった。
「笑ったな?」
先輩は、怒ったような、呆れたような、困ったような問い方をした。
「すいません。伝わってて良かったな、と安心したのと同時に、着眼点はそこかあ、って思っちゃって、つい」
やはり、先輩は面白い。まあお叱りの内容はごもっともだし、今までに僕は一度も先輩のことを『きみ』だなんて呼んでいないし、ちょっと無理があったかな、とは思ったけれども。
「で、今日の分の感想は無いのでしょうか」
僕が訊ねると、先輩はストローの先から発声しているような、細々かつイジイジとした物言いで、長ったらしく僕を責め始めた。
「遠回しかつ詩的すぎて、分かり難いし、読みにくい。それに、ルール通り摘まむと鍵括弧を読むことになるし、『お見事』とは言ってやれないね。そもそも、これじゃあ告白した後にどうしたいのか、目的やら何やらが見えてこない。もっと、こう…簡単に、端的に、誰にでも伝わる様に言い直せないの?」
その言葉で、僕はいよいよ吹き出してしまった。アハハハハ、腹の底から笑いが飛び出て止まらない。
仕方が無い。リクエスト通りに言い直そう。僕は深呼吸をすると、声を張って先輩に告げた。
「好きです。僕と付き合ってください」
最初のコメントを投稿しよう!