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ラブレター、百枚並べて
「好きです。僕と付き合ってください」
自分でも凡庸な台詞だと思ったけれど、これ以外を告げる勇気が、度胸が無かった。もちろん振られた。ご丁寧に駄目出しまで頂いて。
「ありきたりでつまらない。簡単で捻りが無さ過ぎる。せめてバラを百本用意するとかさ、そのくらいやってみせてよ」
それが先輩の答えだった。
卒業式の後で呼び出されたら、その時点でもう『ありきたり』だよなあ。けれど、このタイミングしかなかったじゃないか。言い訳を頭の中で繰り返しながらも、諦めの悪い僕は喰らい付く。
「じゃあ、告白、やり直します。ラブレターを百枚渡すとか、どうでしょう」
先輩の家は、通学路の途中にある。僕は部活やら補習やらで毎日学校に行くし、一日に一通ずつ投函する事は難しくない。
「あはは、いいね。面白い。けど長文で貰っても読むのが面倒だなあ。うん。一枚につき一文、ってのはどうだろう? ひと言ラブレターだよ。貰いっぱなしも悪いし、メールで感想も返してあげる。どう? 百枚書いてくれるかな」
先輩はにやけながら僕の目を覗き込んだ。やっぱり止めます、とでも言うと思ってるのだろうか。大間違いだ。
「書きます」
百。それはとても大きな数字だ。身近な癖に遠いもの。
バラは百本買えないけれど、気持ちなら無限に湧いてくるからきっと平気だ。ここに来て急に謎の自信が湧いてきた僕は、先輩曰く『ありきたり』でも『簡単』でもない告白というものにチャレンジすることになったのだった。
帰宅してから二時間ほど机に向かっていた僕は、計算を終えると文具店に便箋を買いに向かった。シンプルな単色のものを六セット。内訳はアイボリー、クリームイエロー、ライトブルー、ミントグリーン、ラベンダー、ローズピンクだ。色のセレクトに理由は特に無いけれど、なんとなく綺麗で目に痛くない、柔らかなものを選んだつもりだ。
さて、今日から頑張らなくては。封を開け、一枚につき一文をガリガリと書いてゆく。すると、スマートフォンがチカリと光った。電話帳に登録の無い、見知らぬ誰かからのメールだった。開いて確認しても本文や題名は無かったけれど、僕は差出人が先輩だとわかった。
アドレスには『kokuhaku_ukenagashi_sennyou』の文字。この為だけにフリーアドレスを新たに取得したようだ。全く、先輩らしいというか、何と言うか。だが、僕は『受け流させる』気なんてこれっぽっちも無い。
その晩、僕はクシャミが十回出るまで寝ないと決めてラブレターを書き続け、十七枚書いた所で部屋の電気を消した。
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