僕と僕

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 走っている最中、何かを考えないといけないわけではないが、考える余裕がなければいけない気はする。僕にはいつだって余裕がない。頭には常に蜘蛛の巣が張り巡らされていて、その隙間から一つ一つ言葉を選ぶこともできない。だけどみんなはできる。それが精神力だ。  そのうち頭だけでなく、その蜘蛛の巣は喉にまで到達してしまい余計に自分を見失う悪循環が発生する。みなはどうやって気持ちを強く保っていられるのだろうか。どうやったら心が強くなるのだろうか。  練習の仕方にもよるが、ある一定のところまでは走れば走るだけ記録は伸びる。体にちょうどいい筋肉もつく。では心は?どうしたら強くなれる?誰が教えてくれる?精神力が身につく方法を。走れば心も強くなるのだろうか。それなら僕はすでにそれなりの精神力を身につけているはずだが。  なけなしの気力で駆け上がるが、他人が見たら摺り足で力もなく、練習の意味を疑われるほどに思われるかもしれない。足が僕の言うことを聞いてくれない。足だけならまだしも今日は喉の管も塞がっているんじゃないかと思うくらいに息苦しかった。喉にかさぶたが覆い被さってるみたいに、トゲトゲチクチクがせっかく吸い込んだ空気さえも絡み取ってしまう。  他人の目を気にする前に、自分の体を味方にしなくては。僕の体を守り支えるのは僕だけだ。幸い発作だけは起こらなかったので、何事もないふりをして練習を終えた。普通に運動をしている苦しさ以外の表情は、できれば誰にも見られたくない。見せたくない。気づかれたくない。悪いことをしているわけではないので、弱点をさらけ出したくないという防衛本能かもしれないし、ただ単にかっこ悪いと心のどこかで思っているだけなのかもしれない。  いや、思っている。単にかっこ悪いと。
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