レギュラー

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レギュラー

 駅伝の大会が近づくにつれてメンバーの士気は高まっていた。僕は出場できないなりにひっそりと興奮していたが、やはりレギュラーメンバーのそれにはかなわないだろう。  そんなとき、大会一週間ほど前になって、二年のレギュラーメンバー岡が練習中に全治一ヶ月の怪我を負ってしまった。到底、大会まで間に合いそうになく補欠メンバーから新たにレギュラーメンバーが選出されることになる。かわいそうではあるが怪我ならば仕方ない。運動していれば怪我はついてまわるし、どんなに気をつけていても負傷してしまうときはしてしまうものだ。幸い岡は二年生であるので、最後の大会というわけでもない。  不謹慎ではあるが岡の代わりに僕が選ばれるかもしれない、ととっさに思ったのは言うまでもないだろう。しかし、その思いが一瞬でかき消された。なぜなら、今の僕のタイムでは選ばれる可能性が非常に低かったからだ。  岡は二年生、たぶん二年か一年のメンバーから選ばれることになる。タイムもそれほど変わらないし、先のある二年か一年を試合に出して経験を積ませるというのが一般的だ。もちろん、先生の裁量なのでそれが百パーセントだと断言はできないが。  断言できなかったとおり選ばれたのは意外にも僕だった。先生に名前を呼ばれた瞬間僕はしゃがみこんで靴紐を結んでおり、話を全く聞いていなかった。先生の話どころではなく、どうしてそうなったかわからないが、右足のランニングシューズの靴紐の右側一本がそれ自身で絡まり合いなかなかほどけない。    一本しかないのに絡まるとはどういうことだろうか。どうやったらこうなるのだろう。不器用な僕はさっさとハサミでちょん切ってしまいたい衝動に駆られるが、大事なランニングシューズの靴紐だからそんなことができるわけもない。走っていただけでこんなに絡まるものなのか。  めんどくさい、本当にめんどくさいけど、靴紐を直さないことには安心して先生の話も聞けない。ほどけないほどけないほどけないほどけない……頭が朦朧としてくる。ふわふわとした心地になり白いモヤモヤに体中が包まれた。
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