ふたり

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「なぁ、お墓ってどこにあるの?」  奏の答えはここから特急で二時間ほどの隣県。意外と近かったんだというのが第一印象。「行ったことある?」の答えは否。亡くなった恋人の話になると当たり前だけど奏の表情は硬くなる。 「いつ行く?」  奏の顔から表情が消えた。頭では分かっていてもこういう奏を見るとやはり辛くなる。奏の中の一番はやっぱり梓ではないのだと、意地悪な誰かの声が聞こえるような気がする。 「……梓は嫌じゃないか?」  唐突に向き合った奏が思わぬ問いかけを向けた。なんのことか分からず目だけで問い返した。 「この前の北海道のときもだし、今度も……梓には関係のないことなのに、付き合わせてるみたいだし、迷惑かけてるから……」  奏の言葉をゆっくりと頭の中で噛み砕いて、理解して――。  昔の梓ならキレて怒鳴ってしまったかも知れない。その後で後悔して落ち込む。今は、それでも険を含んだ表情は隠せそうになかった。 「俺、関係ない?」  梓の苛つきを感じたのか奏がしまったという風に表情を固めた。 「迷惑って……この前だって俺から誘ったんだろ? 付き合わせてるってなんだよ? 俺はずっと奏が好きなんだ。だから下心だってムチャクチャ含んでるよ? 奏がさっさと気持ちに整理つけて俺のほう向いたらいいのにって、そればっかり考えてる」  悪い癖が出た。相手のことなんか考えずに自分の気持ちを押し付けてしまう。せっかく奏の気持ちに寄り添えるようにがんばってきたのに……。こんなこと言ったら奏はまたプレッシャーを感じるかも知れないのに。  呆気にとられたように見つめる奏から目を逸らせた。頭の中に後悔が渦を巻いている。 「梓ってばいっつも優しいから無理してるんじゃないかと思った」  笑いを含んだ奏の声に、驚いて顔を合わせる。奏が吹き出すのを堪えるかのように口元を押さえていた。 「俺、優しくなんかないよ。すごい自分勝手。下心満載だもん」 「でも俺が誘ってもキス以上しない」 「それは――俺は奏の一番じゃなきゃ嫌なんだよ……」 「一番じゃないと思う?」  奏を見て頷いた。 「奏の一番はまだここにいるでしょ?」  奏の胸を指さして断言する。悔しいけど俺はまだ一番じゃない。大きな想いの欠片がまだきっと奏の心には眠っている。 「弱みに付け込むみたいにして奏が後悔してしまったら嫌だ」  一線を越えてしまえばきっと離れたくなくなる。けれど誤魔化しながら過ごすような恋愛は二度とごめんだ。 「俺、臆病なんだ」  相手の気持ちが自分には向いていないかも知れないなんて思いながら過ごすのは苦しくて堪らないのだから。 「ねぇ、俺の一番は梓だって言ったら信じる?」  真顔の奏に見つめられて思わずうろたえてしまう。言葉なんか出なくて、とにかく首を横に振った。 「じゃあ、どうやったら信じてくれる?」  真剣な奏の表情に圧されて声が出なかった。  どうやったら。 「最近ずっと梓のことばっかり考えてるよ、俺」  奏がメガネを外して横に置いた。 「“俺の恋人です”って梓を紹介したい」  呆然としてる隙に奏の唇が重なった。情けない梓は全く身動きすることができずにいる。 「信じられないって言ってる相手を誘うのって結構勇気がいるんだけど?」  吐息の熱が感じられるほどの至近距離で奏が呟く。梓の頭が徐々にクリアになっていった。ちゃんと言わなきゃ伝わらない。
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