ふたり

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「最後にもう一回写真を撮りに行く」  奏が笑ってカメラを手にした。  十一時二十八分。蔵内第三踏切。  奏に言われるがままに赤く色づいた桜の木の下に立った。濃いグリーンのボディが踏切を通過した瞬間シャッターが切られる。  写ったのは電車の後部とおそらくは戸惑った表情の自分。 「行こうか」  奏が府道へと抜ける踏切を見た。遮断機がゆっくりとあがっていく。  ああ、そうか。  奏と並んで踏切を越えながら気づいた。  去っていく電車の後姿と奏のほうを向いている梓。奏の心は前へと進んだのだ。 「なぁ、今すごく奏にキスしたい」  呟くと奏が慌てたように振り向いた。焦って赤くなった奏を見て顔が綻ぶのが分かる。  交差点の電信柱の陰でほんの一瞬だけ唇を重ねた。  府道を横切る信号が青へと変わる。 「じゃあ、また夜に」  約束を交わしてそれぞれの方向へと進んでいく。  遠く後ろから踏切の音が聞こえた――。
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