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 梅雨明け宣言ってまだだったよなぁ。ジリジリと照りつける太陽に額の汗を拭った。さっきまでエアコンを効かせていた車内は、窓を開けたことで熱気が充満し、一瞬で汗が噴出す。助手席に放っていたタオルを首にかけ前方を眺めた。  この位置からだと青々とした桜の葉しか見えない。  十一時二十四分。先週は運悪く寝台列車の通過時間までに間に合わなかった。今日のタイミングはどうだろうか。  いた。  あ、珍しい、黒のTシャツ一枚だ。いっつも白系が多いのに。けど、濃い色のせいか身体のラインがキレイに見えている。細身だなぁ。 「バッチリ」  中間地点でサイドブレーキを引き、小さくガッツポーズをした。いつもと同じ真剣な眼差しに鼓動が早くなる。話しかけても大丈夫だろうか。  バックミラーに電車の最後尾が映る。カメラから視線を上げた彼がこちらに向かって軽く首を傾げるあいさつをしてくれた。途端に心臓が跳ね上がる。  何を言おうとしてたっけ。焦りに言葉が出てこず、後続車が近づいてくるのが分かった。 「あ……あの、これどうぞっ。あ、と、冷えてないけどっ」  咄嗟に助手席の足元に転がっていた、赤い炭酸飲料の缶を一本窓から差し出す。驚いたような表情に、身体を乗り出し、腕を限界まで伸ばした。  彼の手に渡った瞬間、互いの指が触れる。こんな陽気なのに少しひんやりとした指先。  後続は少々気の短いドライバーだったようで、けたたましくクラクションが鳴らされる。せっかくのいいところなんだから数秒くらい待ってくれよ。逆恨みに内心でぼやきつつ、慌ててサイドブレーキを戻して車を発進させた。  バックミラー越しに手を振ると、鏡の向こうで振り返す姿が映った。  第二次接触成功。
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