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「梓……――」
耳元に囁かれた声と、頬にひんやりとした指先の感触。瞼を開けると間近で微笑むあの人の顔がある。どうやらいつの間にか寝てしまっていたようだ。
ソファにもたれたまま肩を引き寄せ、そのままその唇にキスをした。唇を離した瞬間、心地好さ気に目を細めたその顔に身体の芯がぞくりとする。
そのまま身体を入れ換え、ソファに押し倒した。メガネを奪い取ると困ったように見上げた目を手のひらでワザと塞いだ。額、瞼、頬――軽いキスを次々と降らせる。
くすぐったそうに身を捩る仕草に笑いをかみ殺し、再び唇を重ねた。今度は少し深く。唇の隙間から熱を帯びた吐息が漏れる。
塞いだ手をどかすと、熱っぽく潤んだ瞳がこちらを見ていた。更に軽く唇を啄ばんで、そのまま首筋へと下りていく。全く日に焼けない白い肌に下を這わせるたび、押さえ込んだ身体が軽く震える。
悪戯心がわき上がり、耳を甘噛みしたあとで耳朶の後ろを強く吸い上げた。少し離れてそこに赤い花びらが散ったのを確認して満足する。
ゆっくりとシャツのボタンに手をかけながら、その肌に口づけを繰り返した。貪りたくなる衝動をなんとか抑えて、ゆっくり、ゆっくり――。
……ジリリリリ・・・・・・
「……っ!!」
突然鳴り響いたアラームに、心臓が止まるかと思った。咄嗟に腹筋だけで起き上がって呆然とする。
当たり前だが自分の部屋だ。目の前のガラスのローテーブルには昨夜飲んでいたビールの缶がそのまま放置されている。付けたままになっているテレビからは子ども向けのアニメが流れ始めていた。
「ありえねぇ……」
ソファに半身を起こした状態で頭を抱える。この歳になって思春期のガキみたいに。誰も見ていないのは分かっていても顔が赤くなるのは止められない。
自分自身にため息をつきながら、ノロノロと身体を持ち上げる。なんとも情けない気分でシャワールームへと向かった。
冷たいシャワーに幾分か冷静さを取り戻す。
落ち着いて考えてみれば、例え夢でも会えたことに少しうれしくなった。ゆっくりと夢を反芻し、再び赤面してしゃがみ込んだ。本能的な部分が自分の意思とは関係なく反応している。
冷たいはずのシャワーすらも温い。
想像だけであんな色っぽいのとか反則じゃないか。
本物が見たい……。
触れたいなんて言わないから。
明日は来る?
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