蚊3

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「店長は恵美子さんと会った事があるんですか?」 「ああ。あるよ。昔は二人でこの店によく来ていたんだ。細くて可愛らしい女の人だよ。でも摂食障害だって噂があったな」 「摂食障害?」 「うん。近所の奥さん達の話だけどね・・・。さあさあ。お喋りはこの辺にして後片付けをして店を閉じよう。早く家に帰ってお風呂に入りたいよ」 「はい。今日も暑かったですからね。私も汗をたくさんかいちゃいました」 茜は持っていたタオルで顔を拭うと自分の腕を上げて匂いを嗅いだ。少し汗臭い。するとその匂いにつられたのか一匹の蚊が茜の腕にとまった。 あっ。血を吸われる。 パチン 咄嗟に腕を叩く。潰れた蚊と誰のものかも解らぬ、滲んだ血が茜の白い腕にへばりついていた。 茜は嫌悪感を覚えて、トイレの洗面所に行き、水でそれを流した。 「茜ちゃん、何をやっているの?シャッター閉めるよ」 「はい。店長すみません、蚊がいたもので」 ああ。嫌だ。誰の血を吸ったんだろう。私は蚊に刺された形跡がないので他人の血がついた・・・それにしても小さな体であんなにも血を吸って、それでも足りなくて、まだ腕にとまるだなんて。貪欲な虫だ。 茜はお腹にたっぷり血を貯めた蚊を想像すると悪寒がして、両腕で自分の身体を抱きかかえた。
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