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フライ屋さんから家までは自転車で二十分の距離だ。外は熱気が凄くて、少し動いただけでも汗が滴り落ちてくるのが解る。茜は家までの平坦な道をゆっくりとペダルを踏んで自転車を漕いだ。
「ただいまー」
築二十年、二階建て一軒家の家に着く。茜は一人っ子でまだ若い両親に大事に育てられているのだ。
「お帰り、茜、夕飯出来てるわよ」
母の声がキッチンから玄関まで聞こえてくる。
「うん。食べる。お腹空いちゃった」
茜は玄関にかけてある鏡を何となく見る。家族が出掛ける時、身だしなみをチェックする為の鏡だ。
すると何だろう。黒い影が茜の後ろにあるのが解る。
えっ?私の後ろ・・・
「キャー」
「どうしたの茜?」
何だか知らない女の人が首を後ろにのけ反って立っていた。濡れた様にかかる髪の間から白目を剥いて茜の後ろにいたのが解る。
「お母さん、助けて!」
血をちょうだい。
どこから聞こえてくる訳でもなく、茜の頭の中に女の人の声が響いた。頭がガンガンする。
「お母さん、お母さん!」
「どうしたの?茜?」
「誰かが後ろにいる」
母がリビングの戸を開けて心配そうに茜の方にやってきた。
「気のせいよ。あらっ、蚊がとまっているわよ」
血をちょうだい。
頭の中に声が響く。
「やっぱり、誰かいるよ。お母さん!」
パチン
母が茜の腕を叩く。
「ほら、血を吸っている。嫌ね。今年は蚊が多いような気がするわ」
「そんな事より誰かいない?」
「気のせいよ。蚊の羽音じゃない?」
違う。はっきりと女の人の声が聞こえた。茜は立っていられなくなりその場にしゃがみ込んだ
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