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「どうしたの、茜?」
「お母さん」
茜は母の顔を見上げた。鏡がその後ろにあるが怖くて顔をそむける。
「誰もいないわよ。どうしたの茜?」
「誰かが鏡に写っていたの」
「見間違えじゃない。それより今夜はステーキよ。早く手を洗って着替えてきなさい」
本当にそうだろうか。茜は腑に落ちなかったが、洗面所にいき手を洗う。腕には先程の蚊の死骸と赤黒い血がついていた。それをお風呂場にあるスポンジで擦って落とす。
気持ちが悪い・・・
何だか夕飯を食べる気にならなくなり、リビングでテレビをつける。テレビではダイエットについて特集をしていた。見ているうちにだ段々と動揺していた心が落ち着いてくるが、血と言う言葉が頭にあってステーキを食べる気にならない。
「茜、夕飯食べないの?」
「うん。食欲無くなっちゃた」
茜はテレビを観てるうちに山下さんの奥さんだったと言う恵美子さんの話を思い出した。
摂食障害か。
過度のダイエットでもしたのだろうか。今は何処に住んで何をしているのだろう。茜は今度店長に聞いてみようと思った。
その晩は寝苦しい夜であった。エアコンの温度を目いっぱい下げたのに暑くて堪らない。茜は何度も寝がえりをうった。ふと気がつくと身体が動かなくなっている。
金縛りだ。
自然と今日見た鏡の中の白目を剥いた女性を思い出してしまう。
みーん。みーん。
ああ。この音、蚊だ。蚊が飛んでいるのが解る。
みーん。みーん。
必死に身体を動かそうとするが、無駄な抵抗の様で身体はびくとも動かない。
金縛りなんて、身体が寝ていて脳が起きているだけで怖い事なんかないんだ。そう思うが何だか嫌な予感がする。
目をあけたらダメだ。
目をあける位なら出来そうだが、怖くてそれが出来ない。
みーん。みーん。
蚊が飛んでいるのが解る。
誰か助けて・・・
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