序章 瓜子姫とあまのじゃく

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序章 瓜子姫とあまのじゃく

 あるところにおじいさんとおばあさんが暮らしていました。  おばあさんが川に洗濯に行ったとき、川上から、大きな瓜が流れてきたので、おばあさんはその瓜をお土産に家に持ち帰りました。  瓜はとても甘い香りがして大変おいしそうだったので、早速食べようと、おじいさんが包丁で瓜を切ると、中からかわいらしい女の赤ん坊が出てきました。  おじいさんとおばあさんには子供がいなかったのでそれは喜んで、女の子を瓜子姫と名付けました。  瓜子姫が来てからというもの、おじいさんの家はあっという間にしんしょう持ちになりました。  おじいさんとおばあさんは瓜子姫をお姫様のように育てました。  瓜子姫はすくすく育ち、村一番の美しい娘になりました。  おじいさんとおばあさんはそれはそれは瓜子姫を大切にしていたので、外にも出さず、また名前を呼ばれても決して返事をしたり外に出たりしてはいけませんと、日頃から言い聞かせていました。  そんなある日、瓜子姫の美しさを噂に聞いた船戸の神様が、瓜子姫を嫁に欲しいと申し出てきました。  おじいさんとおばあさんはたいそう喜んで、町に花嫁衣装を買いに出掛けました。  そのときも、何度も瓜子姫に名前を呼ばれても返事をしたり外に出たりしてはいけませんと言い聞かせました。  瓜子姫が留守番をしていると、外から何やら瓜子姫の名前を呼ぶ声がします。 「瓜子姫や、瓜子姫」  瓜子姫は不思議に思いながら、しゃがれた声を聞いていると、声は、 「瓜子姫や、瓜子姫。戸を開けてくれ」  けれど、返事をしたり外に出たりしてはいけないと言われていたので、瓜子姫はじっと黙っていました。 「外にはおいしい飴や、面白いものがたくさんあるぞ。あーやれそれ、楽しや面白や」  しゃがれた声が楽しそうにトンツクトンツクと太鼓を叩いたり、シャンシャン鈴を鳴らしたりしています。 (なんだかとても楽しそうだ。ほんの少しだけなら見ても良かろうか)  瓜子姫はほんの少しだけ戸を開けて、糸がやっと通るくらいの隙間から外を見てみました。 「あーやれそれ。瓜子姫、そんなのではまだまだ見えまい。音も聞こえまい。もっと戸を開けろ」  確かにしゃがれた声の言うとおり、ほんの少しの隙間からは、何が何やらわからなかったので、瓜子姫はもう少しだけ開けました。 「あーやれそれ。瓜子姫、そんなのではまだまだ見えまい。飴もよこせまい。もっと戸を開けろ」  手が出るくらいなら外に出たとは言わないだろうと、瓜子姫は戸をもう少しだけ開けました。  返事もしていないし、外にも出ていないのだから、おじいさんやおばあさんも怒るまいと思いました。 「あーやれそれ、瓜子姫、手を出してみろ。そうでなければ飴もよこせまい」  手だけなら、外に出たとは言わないだろうと、瓜子姫は戸の隙間から白くて綺麗な手を出しました。  その途端、腕を掴まれて、瓜子姫は外に引きずり出されました。  あんまり驚いて、瓜子姫は声も出ません。  そのまま、あまのじゃくは瓜子姫をくなど山へ無理矢理連れていきました。  そして、山で瓜子姫を臼と杵で叩き潰して餅にしてしまいました。  瓜子姫になりすましたあまのじゃくは餅を持ち帰り、おじいさんとおばあさんが戻ってくるのを待ちました。  家に戻ってきたおじいさんとおばあさんは、二人で餅をおいしそうに食べました。  瓜子姫に花嫁衣装を着せて、船戸の神様の元へ向かいます。  その途中で鳥がカゴに乗った瓜子姫に言いました。 「瓜子姫の代わりにあまのじゃくが船戸の神様に嫁入りするか」 「うるさい」  瓜子姫が初めてしゃがれた声で言いました。  その声で、おじいさんとおばあさんは瓜子姫が実はあまのじゃくだと知り、驚きました。 「瓜子姫はうまかったか。餅はうまかったか」  あまのじゃくは笑いながら風のようにくなど山へ逃げていきましたとさ。  しゃみしゃっきり。
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