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「……ンセ、……センセー、……クラセンセイ」
不愉快な音が私を安らぎの時間から引きずり出そうとしている。
「サクラ先生! 今日は約束をしてましたよねっ」
不愉快な音を発する男にはデリカシーというものが無さ過ぎる。一体、誰の許可を得て私の寝室までズカズカと入り込んでいるのだろうか。
「いい加減に起きてくださいよ、サクラ先生!」
私は不愉快な音を無視して布団の中に潜り込み体を抱えるようにして丸まった。
温かいシェルターに避難して私は再び目を閉じる。そうしてゆっくりと波間に沈むように心安らかな世界へと旅立つのだ。
「もう! 先生、起きてくださいよっ」
男はそう言い放つとガバっと布団を引き剥がした。急激に私の体が冷気に晒される。
次の瞬間、男は「ウゲッ」とカエルが潰されたような声を上げて、乱暴に私に布団を掛けた。
勝った。
傍若無人な男は「まったくもう!」と吐き捨てながら、ズタズタと大きな足音を立てて部屋から出て行った。
「蘭(らん)さん! 先生が素っ裸で寝てます! どうにかしてくださいよー!」
私の裸ごときで慌てるなんてまだまだ青いとしか言いようがない。一応少しは配慮して背中程度しか見えない姿勢を取ってやったというのに。
私はニヤリと笑って目を閉じ、再び夢の世界に足を踏み出した。
ところが私の夢の旅を邪魔する怪物がすぐに現れてしまう。その怪物は強敵だ。私の裸にも躊躇することなく布団を引き剥がす。
私は寒さに耐えながら固く目を閉じて体を丸めた。
「サクラちゃん、今日は打ち合わせの約束をしてたんでしょう」
私は怪物の声を無視して防御姿勢を固めた。だが怪物は私の防御など軽く突破する。私の右肩に少しひんやりした指がかかったかと思うと、一気に引っ張られてあっという間に仰向けにされてしまった。
あまりの早業に思わず目を開けてしまう。それでも負けてはいられないと再び防御姿勢に入ろうとしたけれど、ガッチリと右肩を押さえつけられているので身動きが取れない。
怪物は真上から私の顔を睨みつけている。
「いい大人なんだから、駄々こねないで」
「だって、さっき寝たばっかりなんだもん」
「それはサクラちゃんの計画性がないからでしょう」
「アイツにはまた今度って言っておいて」
「ダメ、約束は約束」
怪物は少々頭が固い。その辺りは私の気持ちと体調を配慮して柔軟に対応してほしい。
「大体、いつも裸で寝るのは止めて言ってるでしょう」
「自分の家なんだからどんな恰好で寝てもいいじゃん」
「編集さんが来るって分かってるのに裸で寝てるとか、露出狂と一緒だからね」
「露出狂……違うもん」
私は再び防御姿勢で布団の中に潜り込もうともがく。だが、怪物はそれを許さない。
体重をかけて私の右肩を押さえる一方で露になっている左の乳房にそっと触れた。乳房を包み込むように手の平を添えると、ゆっくりとその手を絞り上げていく。
「早く起きないとオッパイ握りつぶすよ?」
ジワジワと力を込めながら囁く恐ろしい言葉の通り、私のオッパイに痛覚信号が灯る。
「イッタ! 痛い、ゴメン、起きる、すぐ起きます」
涙目で叫ぶとようやく怪物は私から体を離した。そして、ポイポイと下着や部屋着を私の方へと放り投げる。
「ほら、さっさと服を着て」
まだジンジンと痛む左のオッパイをさすりながら私は渋々下着を身に着けた。
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