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(…あれ?この人…)
電話をしている私をジッと見ているその人はなんと先刻話に出ていたカリスマ主婦の北原彩奈、その人だった。
『おい、由梨子?訊いているのか』
「あ!…はい、訊いています」
『だから駅に着いたら其処で待っていろ、迎えに行くから』
「はい、分かりました」
電話は源治さんからで、夕方以降の仕事が先方の都合でキャンセルになったために今日の仕事が終わったので今夜は外で食事をしようというお誘いだった。
通話終了ボタンを押して背けていた顔を北原さんの方へ向けた。
「失礼ですけれどお名前、窺ってもよろしいですか?」
「え、名前?…私の、ですか?」
「えぇ」
突然話しかけられたことに驚き、戸惑いながらも私は名乗った。
「伊志嶺由梨子、です」
「…伊志嶺」
その瞬間、北原さんは美しい顔を酷く歪ませた。
「あの…」
「もしかして…伊志嶺源治の奥様ですか?」
「!」
「源治、なんて珍しい名前が聞こえたものですからそう思ったのですが…違いますか?」
「…いえ……はい、伊志嶺源治の…妻です」
「……」
北原さんは益々顔を歪ませた──と思ったけれど、すぐに能面のように表情のない顔を私に向けた。
「突然話しかけてすみませんでした。わたし、伊志嶺源治の前の妻の彩奈です」
「えっ!」
それはまさに青天の霹靂だった。脳天から雷が落ちたかのような衝撃を私は受けた。
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