7725人が本棚に入れています
本棚に追加
瞬く間に一週間は過ぎ、あっという間に生け花教室のある当日になった。
「確か今日は教室だったな」
「はい、午後から行って来ます」
「ん」
朝食の席で交わす源治さんとの会話。
「奥様、お教室には着物で行かれるのですか?」
お茶を淹れながら澄子さんも話に入って来た。
「いえ、そんなに本格的な教室じゃないんです。講師の先生も洋服でしたし」
「しかし着物を着て行く機会もあるだろう」
「それは……そうですね」
そういえば年に何回か発表会みたいなものがあってその時は着物を着ていくような事がパンフレットに書かれていたのを思い出した。
「何枚か誂えるといい」
「え」
「そうですね、また篠田屋さんを呼んでおきましょう」
「そんな、気が早いです!そこまで続くかどうかも怪しいですし」
「着物なんてあればあったで何かの時に役立つだろう」
「…はぁ」
「4~5枚ほど作っておけ」
「多過ぎです!」
和やかな朝食の席は緊張していた私の心を程よく解してくれた。
(今日…彩奈さんは何を話すんだろう)
まだ少しだけドキドキしている胸中だったけれど頑張ろうと気持ちを切り替えられた。
「どうも初めまして、北原彩奈です」
「……」
教室に来てから私は惚けっ放しだった。
カリスマ主婦が生け花の講師をするということで雑誌の記者が何人かいたのにも驚いたし、観覧の人の多さにも驚いた。
でも一番驚いたのは艶やかな着物姿の彩奈さんの美しさだった。
「流石に綺麗よね」
「見て、あのネイル。程よく品があって素敵」
密やかに聞こえる称賛の声に私の気合に満ちた心が萎んで行くようだった。
(うぅ…やっぱり凄い人だ…彩奈さんって)
動く度にたかれるフラッシュの光にも負けない程に輝いている彩奈さんをただただ羨望の眼差しで見ているだけの私だった。
最初のコメントを投稿しよう!