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講座が終わって人気の無くなった教室に着物から洋服に着替えた彩奈さんが現れた。
「お待たせしました。早速だけど場所を移動してもいいかしら」
「はい」
相変わらず凛としていてその所作の美しさに一々見惚れてしまう。
彩奈さんの後をついて行くと教室の地下駐車場まで来た。
「どうぞ、乗って」
「お、お邪魔します」
乗り込んだ真っ赤なスポーツカーは彩奈さんのイメージに合っていて、女としてとことん差が広がって行く惨めさに心が折れそうだった。
軽快に走り出した車はさほど遠くない場所で止まった。
「…此処は」
「わたしの友人のお店」
外見はごく普通の住宅のようだった。カランと涼やかな音を立てて玄関ドアが開いた。
「あら、珍しい」
「お邪魔するわ」
お店の人らしき女性と挨拶をしながら彩奈さんは中に入って行った。
「いらっしゃいませ」
「あ、はい、お邪魔します」
「ふふっ、どうもご丁寧に」
「……」
お店の人に微笑まれて少し恥ずかしかった。
案内されたのは白を基調とした真四角の個室だった。
「オーダーどうする?」
「んー時間が時間だからねぇ……ケーキセットでいいかしら?」
「あ、私は何でも」
「じゃあいつものお願い」
「了解」
一体何屋さんなんだろうと思った。それほどまでに装飾は無機質で余分な飾りつけのない部屋だった。
「此処、落ち着くでしょう」
「…はい」
「完全予約制、しかも一見様お断りで昼間はカフェ、夜はバーになるの。知る人ぞ知る店だから内緒の話をするにはもってこいの場所なのよ」
「内緒の話…」
これからされる話は内緒話なのだろうか?と思ってしまった。
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