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知らなかったとはいえ今までお手伝いさんだとばかり思って接して来たことが申し訳なくて……
「糠床を触らせたのだろう」
「…え」
ふと源治さんが呟いた。
「えぇ、奥様になら、と」
「えっ、糠床って…」
「今日捏ねていた糠床、あれは代々伊志嶺家の認められた嫁しか触ることの出来ない糠床だ」
「えっ!」
「姑が新妻を嫁と認めない限り触ることは許されないのだ。ちなみに彩奈は触っていない」
「じゃ…じゃあ…」
「奥様、明日からみっちり糠床の世話をお願いいたしますよ」
「っ! 澄子さん」
私は澄子さんの小さな体に抱きついた。
「おやまぁ、奥様、抱きつく相手が違いますよ。あたくしは旦那様ではございません」
「澄子さんです!私が今、抱きつきたいのは澄子さんなんです!!」
「……」
「わぁぁぁぁー澄子さぁん」
「…全く…お若い方は涙脆いのですね」
抱きついている私の背中を澄子さんがトントンと優しく叩いてくれる。その振動がとても温かくて心地よくて……私はしばらくの間涙を止めることが出来なかったのだった。
「はぁ…本当に今日は驚くばかりの一日でした」
「そうか」
夜更け──興奮冷めやらぬ私は隣で寝ている源治さんに語り続けていた。
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