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「わぁぁぁ、澄子さん!」
「ちょ、ちょっと奥様、だからいつもいっているように抱きつく相手が違うと」
「澄子さんです!私が今抱きつきたいのは澄子さんなんですから~~!」
「…本当にお変わりのない方だこと」
そう呟いた澄子さんはやっぱり優しく私の背中を撫でてくれたのだった。
「はぁぁぁ~~嬉しいです。これ、一生の宝物になります」
「そうか、よかったな」
リビングでは私と澄子さんのやり取りを黙って見ていた源治さんが、ベッドの上で表彰状を抱きしめる私を柔らかな表情で見つめながらそういってくれた。
「本当に澄子さんって素敵な方ですね。もう大好きです!」
「由梨子がそう思ってくれるのは俺としても嬉しいな」
いつも通り寝室で繰り広げられる源治さんとの甘い時間を過ごしている時、ふと疑問に思ったことが頭の中に過った。
「そういえば」
「なんだ」
「源治さんって澄子さんのこと、なんて呼んでいるんですか?」
「──は?」
「よくよく考えてみれば私、この家に嫁いでから一度も源治さんが澄子さんのことを呼んでいるところを見ていないなって」
「……」
「私に澄子さんのことを話す時には『母』といっているのは知っているんですけど、実際源治さんが澄子さんに話し掛ける時はなんて呼んでいるんですか」
「…なんと呼ぼうがいいだろう」
「え、なんで言葉を濁すんですか」
「濁してなどいない」
「じゃあ教えてください」
「教える必要などないだろう」
頑なな源治さんの言葉に思わず私は憮然とした表情をしてしまった。
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