4

1/1
2人が本棚に入れています
本棚に追加
/6ページ

4

 家に着くと、母さんが玄関先まで出ていた。 「ごめん母さん、箱、無傷で取り返せなかった。中の紙も捨てられた」  母さんと一緒に、片桐さんもいた。どうやら心配して、付き添ってくれていたらしい。 「ま、怪我がなくて何よりだ」 「そうよ。さ、早く中に入って」 「ああ。……ごめん母さん、片桐さんと話があるんだ。片桐さん、ちょっといい?」  二人は怪訝な顔をしていたが、俺は構わずに片桐さんと一緒に彼の部屋に入った。 「片桐さん、これ見てくれよ。昼間言ってた箱ってこれのことなんだけど」 「何だ、壊れてるな。ん、底に鍵穴なんてあるのか」  片桐さんが箱を手に取ると、既にかなり傷んでいた箱の底板がぽろりと外れた。 「うお、すまん、取れてしまったぞ。……む。底が二重底になっているな。何か、紙がセロテープで内側に貼り付けてある」 「本当!? それ、表にはガムの包み紙が入ってただけだったんだ。やっぱり他に何か仕掛けがあるんだろ?」 「これは、……一万円札が二枚だな」  指先でそれをひらひらと振る片桐さんに、俺はがっくりと肩を落とした。 「二万円……? 鍵穴なんてもったいつけて……しかも鍵なんかなくても壊して開けられるし……」 「ま、持って行かれんでよかったじゃないか」片桐さんが肩をすくめる。 「い、いや違う。聞きたいことは別にあるんだ。片桐さん、医者だよね」 「いかにもな」 「頭いいよね」 「それなりにな」 「こんな英語知らないかな。ブラインドアーム、……エンズドゥング……みたいな」 「それはほとんどローマ字読みだな? なら、盲腸か」 「……へ? 何、何だって?」 「Blinddarm Entzündungー―虫垂炎、いわゆる盲腸じゃないのか。英語のブラインドとは綴りが違う……というか、ドイツ語だ。医者のカルテなんかはドイツ語表記だからな」  片桐さんは、傍らにあったメモ用紙にさらさらとスペルを書いた。 「こ、これ! これだ! この通り」 「ほう。しかし、なんでまたそんなものを書き残したのかね、お前の親父は」  俺は、右手を顎に当てて考えた。  盲腸。体の中の臓器。俺の体の中に、金塊。記憶違いでも、嘘でもなければ。金塊そのものでなくても、何か――…… 「片桐さん」 「おう」 「俺の盲腸、切ってもらえないかな」 「なにい?」と片桐さんが目を剥く。 「ちょうど夏休みだし、ちょっとくらい入院してもいい。手術代は払えるよ。俺、――一億円手に入るかもしれないから」  俺は、事情を全て片桐さんに話した。 「いや、……ま、そりゃ、何かはあるのかもしれんが。病気でも何でもないのに、お前の腹を切れというのか?」 「頼むよ。母さんにもちゃんと許可もらうから。俺の、俺たちの人生がかかってるんだよ!」
/6ページ

最初のコメントを投稿しよう!