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■  手術は、片桐さんが口をきいてくれた小さな病院で、簡単に終わった。  元々、何かを切除するんでも何でもないのだから、当然といえば当然だが。  ただ、その手配をしてくれた片桐さんはかなり大変だったようだ。これからはますます頭が上がらない。  麻酔が切れた俺は、片桐さんが建てた診療所のベッドで横になっていた。  薄っぺらい間仕切りのカーテンを開けて、片桐さんがやって来た。 「お前の盲腸の脇には、こんなものが入っていた。全く、よそでレントゲンでも取られてたらどうするつもりだったんだ。胸部でなければバレんとでも思ったのかね。ま、いずれ見つかってくれなければ無意味になってしまうわけではあるがな、それにしても」  そう言って片桐さんが見せてきたのは、金色に光る鍵だった。家の鍵より少し大きいくらいの、ちっぽけなものだ。 「金というのはかなり安定した物質でな、王水という液体でしか溶けんので、人体で溶け出して金属アレルギーを起こすようなことはない。それにしても隠し場所が、それを与えたい本人の体の中というのは、考え方がシンプルというか安直というか大馬鹿というか、大馬鹿だな」 「……小さい鍵だね。とても一億円分には見えないな」 「お前のあの桐箱な、あの鍵穴とピタリ一致したぞ」 「ええ……じゃあ、本当にあの二万円のための鍵なのかよ、これ。手術代の方が高くつくじゃんか」  げっそりと呟く俺に、片桐さんがしかし、真面目な顔を向けた。 「いいや。そもそも金というのは柔らか過ぎて、鍵なんぞ作るのには思い切り不向きな金属だ。おまけにお前の言っていた通り、壊して開けられる箱の鍵なんぞ意味がない。つまりこれは、鍵ではあるが鍵ではない(・・・・・・・・・・・)のではないか」 「へ?」 「使用法が、鍵穴に差し込むものではないのではないか。見ろ、鍵の頭に掘り込みがあるだろう。線状と点状の溝だ。これをモールス信号として書き出すと、ある銀行の名前になる。それもお前の親父やその組が御用達にしていた、色々な融通(・・)のきく銀行だ」 「……え?」 「経過がよくなって落ち着いたら、お母さんと相談して、確認に行ってみろ」
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