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企画の内容は、至ってシンプルである。
とある田舎の小学校に取材に行き、あまり活発ではない一人の児童に密着。その児童に、友達が一年で百人できるようテレビ局でバックアップするというものである。――わかっている。自分でも滅茶苦茶だろ、ということくらいは。どんなに友人が多い子供でも、友達の数は精々二桁が関の山。“とっもだっち、ひゃっくにん、でっきるっかな~♪”なんて有名な歌があるが、あれを聞いた現実的な子供達はみんな失笑していることだろう。そんなの無理に決まっている、と。
そもそもだ。――企画に応募してきた児童の学校は、本当にド田舎の小学校だったのである。つまり。
「……さすがにこりゃ予想外だったぞ。小学校の全児童足しても百人いないどころか、村の住人全部足しても百人行かないじゃねーか……」
●●県●●郡○○村。そこは、本当に小さな村だったのである。応募してきた親に連れられ、今年から小学校に上がる女の子の“まりあちゃん”は。緊張気味にもじもじしながら俺に言ってきたのだった。
「ち、小さな村なのは、わかってます。でも、わたし、友達百人欲しいんです!助けてください、でぃれくたーさん!」
先に言っておく。俺は断じてロリコンではない。そして子供もいない。それでも、小さな女の子が一生懸命頭を下げてお願いしてきいたのを見て、心が動かない大人はそうそういないものである。
女の子のための、精々小学校だけの企画であるはずが。友達を百人作るために、いつの間にやら村単位のバックアップになってしまった。村おこしをして、少しでも村外から子供達を呼び寄せる必要ができてしまったのである。
一体コストがどれくらい嵩むことやら。果たして今回の企画の予算で足りるかどうか。俺は不安にかられたが、女の子にすっかり懐かれた風祭は嬉しそうに言った。
「小学校の皆さんも、村の皆さんも、協力してくれるって言ってるんですよ!頑張りましょうよ、ディレクター!」
桜が舞い散る季節。俺達の無謀極まりない計画がスタートした。俺達はまず、○○村の伝統行事である○○祭りに着目した。村の住人達が、みんな同じお面を被って村中を練り歩き、一年の息災を願うお祭りである。ただし、規模が小さい上に、開催時期が秋と来ている。秋までただのんびり待ちぼうけしているわけにはいかない。俺達は秋に向けて、いかに祭りを盛り上げるかの企画を必死で考えることになった。同時に、他の方面にも頭を回すことになる。祭以外にも村の長所をアピールし、いろんな人に来て貰えるようにする方法はないものか、と。
俺達にとって最初の嬉しい誤算は、まだ幼いというのにまりあちゃんが非常にしっかり者であり、積極的な性格をしていたということだろうか。そもそもこんな田舎の町で、友達を百人作りたい!なんて阿呆らしい企画に全力で応募してくるような女の子が、暗い性格であるはずがない。
「でぃれくたーさん!桜が咲いているばしょって、子供も大人も大好きだってききました!こういうの、村のあぴーるになりませんか?」
スタッフのみんなに、お母さんと一緒に作った手作りおにぎりを差し入れしながら、彼女は小さな手に不似合いなほど大きなスマートフォンを見せてくる。
華やかな桜の景色の写真。それを撮影して、一生懸命宣伝してくる彼女の姿に、俺は心を打たれることになった。
「……そうか、桜……まずはそいつだ!」
手作りおにぎりは、少ししょっぱい気がしたけれど。多分その理由は、単純に塩が多かっただけではないのだろう。
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