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プロローグ メッセージ
飽きない。 このなんの変哲のない日常という空間に、人々は刺激を求めるが、俺たちにとっては、とてつもなく幸せな日々である。
毎日忙しく過ぎていく時間と、流れに身を任せるだけの生活、どちらにも時間は平等であり、相対的に流れる速さの感覚は違えど、同じなのだ。
ならば、少しでも長く感じていたと思うのは必然であり、近い将来に大人の一員として社会に出れば、否応なしに忙しくなってしまうのだ。
この生暖かい世界を満喫できるのも残り数年、だから一生懸命平凡な日々を送ろうではないか。
「…や、……か…や。 白石鐘也!」
自分の名前を呼ばれていることに気が付き、黒板を見ると眉間にしわを寄せている日本史の先生の姿があった。
「お前! 人の話を聞いているのか!? この問題解いてみろ!」
勢いよく黒板に書かれたのは、普段の授業のときとは違って汚い文字で数字が書かれていく。
【1336 525】とだけ。
「この数字をみて、何を連想するか? 私の授業を真面目に聞いていれば、解けると思うがね。」
ニヤニヤとする先生であるが、その数字から連想される問題は、おそらく入試では出ないレベルの内容である。
あからさまに、俺を小ばかにした内容であったが、答えれないことはない。
「1336年 建武3年 五月二十五日、南北朝時代の代表的な戦でもある。 湊川の戦いですか?」
「…。」
唖然とした表情でこちらを見てくる先生、もしかして間違っていたのだろうか?
「違っていますか?」
少しの間があってから、咳を一つした後に小さな声で俺に正解を告げると、また黒板に向き直って授業を再開した。
俺は、さらに授業内容に興味を失い、再び心地よい日差しに顔を向ける。
授業が終わると、いつもの二人がこちらに向かって歩いてきた。
「しっかし、すげえな鐘也は、あの問題資料集には載ってたけど、教科書には、太字記載では無かったぜ。」
この男子は、俺の親友の一人でもある二本松繁実、短く軽めにワックスで整えた髪型と運動神経抜群で、性格も明るいときている。
ただ、物事を深く考えないタイプで、猪突猛進がモットーであり、ストッパーである俺がいなければ、すぐに何か問題を起こしてしまっている。
「みたみた? あの先生めっちゃ変な顔してた。 相当悔しかったぽいね。」
日本史の先生に負けないくらい、ニヤニヤしながらやってきたのは、もう一人の親友で五色三春、今時の女子高校生で、セミロングのストレートヘアにさっぱりとした顔だちで、いわゆる美人の分類に入ると思われる。
行動は周りの友だちにあわせているが、俺たちと一緒のときは、自分を出しており下品な面もあるが、基本的には良い人間である。
「いや、たまにこの程度の問題なら、出題する大学もあるから、知っておいて損はないよ。」
「いやいや、知っているだけ凄いよ。 鐘也は勉強興味ないのに、成績上位って羨ましすぎるって。」
「ほんとそれ! 絶対陰でコソコソ勉強しているタイプだと思ったのに、家の部屋の中、本当に勉強道具一切ないんだもんね。」
「俺から言わせてもらえば、明るくて社交的な君たちのほうが羨ましいけどね。」
「だったら、もっと人に興味もとうぜ!」
「そうだよ…。 もう少しでいいから、興味もってくれるとありがたいな。」
なぜか、照れている三春の背中を笑いながら繁が叩く。
「いったぁ! なにすんのよ!?」
「ドンマイ!」
意味が分からない、しかし、三春は何かに腹を立てているのか、繁を追いかけまわしている。
そう、俺はこんな平凡な日常がこの上なく好きだ。
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