プロローグ メッセージ

1/2
7人が本棚に入れています
本棚に追加
/5ページ

プロローグ メッセージ

 飽きない。 このなんの変哲のない日常という空間に、人々は刺激を求めるが、俺たちにとっては、とてつもなく幸せな日々である。  毎日忙しく過ぎていく時間と、流れに身を任せるだけの生活、どちらにも時間は平等であり、相対的に流れる速さの感覚は違えど、同じなのだ。  ならば、少しでも長く感じていたと思うのは必然であり、近い将来に大人の一員として社会に出れば、否応なしに忙しくなってしまうのだ。  この生暖かい世界を満喫できるのも残り数年、だから一生懸命平凡な日々を送ろうではないか。  「…や、……か…や。 白石鐘也(しろいしかねや)!」  自分の名前を呼ばれていることに気が付き、黒板を見ると眉間にしわを寄せている日本史の先生の姿があった。  「お前! 人の話を聞いているのか!? この問題解いてみろ!」  勢いよく黒板に書かれたのは、普段の授業のときとは違って汚い文字で数字が書かれていく。  【1336 525】とだけ。  「この数字をみて、何を連想するか? 私の授業を真面目に聞いていれば、解けると思うがね。」  ニヤニヤとする先生であるが、その数字から連想される問題は、おそらく入試では出ないレベルの内容である。  あからさまに、俺を小ばかにした内容であったが、答えれないことはない。  「1336年 建武3年 五月二十五日、南北朝時代の代表的な戦でもある。 湊川の戦いですか?」  「…。」    唖然とした表情でこちらを見てくる先生、もしかして間違っていたのだろうか?  「違っていますか?」  少しの間があってから、咳を一つした後に小さな声で俺に正解を告げると、また黒板に向き直って授業を再開した。  俺は、さらに授業内容に興味を失い、再び心地よい日差しに顔を向ける。  授業が終わると、いつもの二人がこちらに向かって歩いてきた。  「しっかし、すげえな鐘也は、あの問題資料集には載ってたけど、教科書には、太字記載では無かったぜ。」  この男子は、俺の親友の一人でもある二本松繁実(にほんまつしげざね)、短く軽めにワックスで整えた髪型と運動神経抜群で、性格も明るいときている。  ただ、物事を深く考えないタイプで、猪突猛進がモットーであり、ストッパーである俺がいなければ、すぐに何か問題を起こしてしまっている。  「みたみた? あの先生めっちゃ変な顔してた。 相当悔しかったぽいね。」  日本史の先生に負けないくらい、ニヤニヤしながらやってきたのは、もう一人の親友で五色三春(ごしきみはる)、今時の女子高校生で、セミロングのストレートヘアにさっぱりとした顔だちで、いわゆる美人の分類に入ると思われる。  行動は周りの友だちにあわせているが、俺たちと一緒のときは、自分を出しており下品な面もあるが、基本的には良い人間である。    「いや、たまにこの程度の問題なら、出題する大学もあるから、知っておいて損はないよ。」  「いやいや、知っているだけ凄いよ。 鐘也は勉強興味ないのに、成績上位って羨ましすぎるって。」  「ほんとそれ! 絶対陰でコソコソ勉強しているタイプだと思ったのに、家の部屋の中、本当に勉強道具一切ないんだもんね。」  「俺から言わせてもらえば、明るくて社交的な君たちのほうが羨ましいけどね。」  「だったら、もっと人に興味もとうぜ!」  「そうだよ…。 もう少しでいいから、興味もってくれるとありがたいな。」    なぜか、照れている三春の背中を笑いながら繁が叩く。  「いったぁ! なにすんのよ!?」  「ドンマイ!」  意味が分からない、しかし、三春は何かに腹を立てているのか、繁を追いかけまわしている。  そう、俺はこんな平凡な日常がこの上なく好きだ。       
/5ページ

最初のコメントを投稿しよう!