プロローグ メッセージ

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 学園が終わると、特にやることのない繁と三春に声をかけて、放課後の教室でひたすら会話を楽しむ日々。  繁は入学と同時にいくつかの運動部に声をかけられていたが、全部断った。  三春も黙っていれば美人なので、いくつかの告白を受けたという、噂を耳にしたことが数回あるが、未だに付き合った経験は無いと言う。  それに、気になる話題と言えば、今度転校生が来るという話題が出たが、俺は興味があまりない。   そんなイベントとは程遠い存在である自分自身について、冷静に分析をしようと思ったことがあったが、それよりもお風呂上がりのアイスは何を食べるのかが重要で、すぐに思考することをやめた。  「よっしゃ、今日も帰るかな…。」  最終帰宅のチャイムが鳴り響くと、外で部活をしていた生徒も一斉に帰りの仕度を始める。  「もうそんな時間? まだ夕日沈んでないのに…。」  「まぁ、そんなに落ち込むなよ。 また明日も集まろうぜ。」  三人で教室を出て、そのまま全員の分かれ道まで、再度他愛ない会話を楽しんでいく。  一番最初に三春の家に着くと、繁はその場から走って帰宅していく。  二人は幼馴染らしく、ずっと同じ学校のようだが、不思議なことに最初に俺に話しかけてきたのは、三春のほうが先であった。  向きを変えて自宅までの道のりをゆっくりと歩いていく、親は今日も深夜を過ぎてこなければ帰ってこないであろう。  三春の家から徒歩で十五分離れた場所に自宅があり、二人とは中学まで別の学区になる。  さほど離れていないのに、疑問に思ったことはあるが、ルールであるならば仕方がない。  「ただいま…。」  誰もいない、薄暗い家に入るとまっすぐ自分の部屋に向かって歩き出す。  母親が一旦帰ってきて、冷めたご飯をテーブルの上に置いてあるのも日常であり、唯一自分がこの家で落ち着くのは本に囲まれた自室だけだ。  四方を本棚に囲まれ、テレビはなくベッドだけが中央に置かれている。  枕の横には小さなノートパソコンが一台だけ、殆ど起動させることはない。  鞄を入り口付近に置き、岳飛の伝記を手に取ると、ベッドに腰掛けて読み始める。  少し暗いが、これぐらいが一番集中できると感じていた。  しかし、まだ読み始めて十頁目で、いつもは静かな自分の携帯端末にメッセージが入ったことを告げる音楽が鳴り響いた。  俺に連絡をしてくるのは限られている。 繁実か三春のどちらかであろう。  本にしおりを挟めて、携帯端末のディスプレイを覗くと、そこには差出人不明のメールが入っており、宛先が俺と繁実と三春の三人になっていた。    タイトルは『警告』。 なんだ、新手の詐欺か何かか? しかし、宛先がこの三人ってのが気になる。  一応ウイルスチェックを行ってから、メールを開くと座標が書かれているだけだった。    パソコンを起動させ、座標の位置を調べてみると、この街の外れにあるバブル期の遺産でもあった廃工場跡地付近になっている。    「何があるっていうんだよ…。」    画面を閉じようとしたとき、またもや携帯端末が鳴り出す。 今度は三春からであった。  「ねぇね! 見た? 変なメール来なかった?」    「あぁ、来たよ。 やっぱりそっちにもか?」  「うんうん! 確認のために繁にも連絡したら、返事する前に家に突撃してきたんだけど、ちょっとややこしくなりそうだったから、玄関で待たせてる。」  「あいつらしいな。」  「どうおもう? ここって調べたら、あの丘の上にある工場跡地だよね?」  「そうだな、何もない場所で、あるものって、鉄くずと野良猫の住処になっているくらいだな。」  「だよね…。 でも詐欺にしては変じゃない?」    「確かに、なぜ俺たちのアドレスが漏れたのかは不明だが、これは意図的に俺たちに狙いを絞って送られたメールだと思う。」  「うわぁ! なんだかカッコいいね。」  「バカか? もし犯罪組織だったらどうする?」    「えぇ? でもウチってそんなお金ある家じゃないよ。 それに三人も一気に狙うメリットって無いと思うけどね。」  おっしゃる通りです。  しかし、いたずらの類にしては手が込んでいる。 それに、俺たちにこんな行為をして喜ぶ人に心当たりもない。  「気になるなら、今から行ってみるか?」  「え? でも怖いかも…。」  「大丈夫だって、遠くから見て何もなかったらすぐに戻ればいいだけだし。」  平凡を愛する俺にしては、珍しく提案をしてしまった。  それだけ、このメールは俺の僅かに残っていた好奇心を刺激してきたのだ。  「うぅん…。 わかった、今から準備するから五分したら、私の家に向かってきて。」  「わかったよ。」  通話を終えて、もう一度地図を確認する。 そして、制服から私服に着替えると、三春の家を目指して歩き出す。  たった一通のメールが、俺を動かした。 なぜだ? そんな疑問が心を支配する。   とても気持ちが悪い、数分歩いていくと向こう側から、繁と三春が手を振りながら、俺を待っている姿が見えてきた。    「そういえば、こうやって夕方以降に外に出たのっていつ以来だったかな…?」  僅かに残っていた日の当たる場所が、工場に向かいだすと、段々と影の範囲が広がりだし、まもなく夜がくることを告げていた。
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