遭遇

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遭遇

 廃工場跡地までは、徒歩で二十分以上の距離があるが、三人ならば退屈するといったことはない。  念のため、繁は昔使っていた野球のバットを持ってきている。  これほど、手の込んだやり口を行える犯罪組織に対してバットだけでは、到底太刀打ちできないのは百も承知だが、無いよりはまし、安心できるお守りのようなモノだ。  「お、見えてきたぜ。」  地平線へ太陽が沈み、辺りは星明りと、持ってきた懐中電灯の明かりだけが頼りになる。  繁が楽しそうにバットを構えて進み、真ん中に三春が懐中電灯で先を照らしていた。  俺は殿(しんがり)を務め、辺りを警戒しながら、携帯端末で座標と地図を見比べていく。  「ストップ、もう少しで目的地だけど…。」  繁はなぜか興奮しだし、三春は辺りをくまなく照らしてながら、少しづつ俺に近づいてくる。  「おい! 鐘也、どこら辺だ?」  「たぶんだけど、あの廃工場の中だと思う…。」  「えぇ、中ならやめようよ。 遠くから確認したら帰るって約束だったじゃん。」  震えながら話しかけてくる彼女は、唇は真っ青になり、目に涙も浮かびだしてきている。  そして、もう一つ気がかりな点があった。  「三春、この場所に来るまで野良猫ってみたか?」  「え…? そう言えば見てないかも、昼間くると絶対何匹かと遭遇するけど。」  「うん、それにこれだけライトで照らしていれば、猫の目に反射して、存在が確認できるはずなのに、どこにもいない…。」  嫌な汗が流れる。  「おい、二人して何ぶつくさ言ってるんだよ。」  繁がこちらに向き直って、話しかけてきた背後にある建物の中で何かが光った。  「ヒッ!」  声にならない悲鳴をあげた三春と、慌てて後ろを振り返ってバットを構えた繁、そんな二人を俺はなぜか冷静に見ていた。  光は一瞬で、青白くはっきりと形をもっていた。    「どうした? 三春、何をみたんだ?」    「わかんないよ…。 ただ、あの建物の中で何か光ったの。 鐘也も見たでしょ?」  「あぁ、はっきりとな。 でも、一瞬だった。」  夜風に揺れる雑草同士が擦れ、不気味な音が聞こえてくる。    「なぁ、帰るか?」    繁が顔を強張らせながら提案してきた。  「私も賛成かな…。 足すくんで動けないけど。」  その時、工場跡地から一つの影が出てきた。 その存在は二足歩行したときの熊のような高さに、シルエットは細く、ゆらゆらと揺れている。  俺は急いで懐中電灯で照らすと、そこにいたのは、今まで見たときのない、生物がいた。    「きゃぁぁぁぁあ!」  大きな蛇のような目が、ライトに照らされ不気味に光り、こちらを凝視している。  緑色の皮膚をしており、口は小さく細かい牙が何本も生えていた。  「な、なんだ!?」  三春は悲鳴を上げると、その場に崩れ、繁も混乱しているのか、無暗にバットを振り回しだした。  「逃げるぞ!!」  俺は二人に声をかける。 しかし、俺のズボンを三春が掴む。  「ごめんなさい…、動けない。」  腰を抜かしてしまい、動けないでいる。 繁はなぜかあの得体の知れない生物に対して、向かうような体勢をとっていた。  「バカが!」    俺は急いで、彼の襟をつかむとこちらに引き寄せ、勢いよく頬を叩く。  「冷静になれ! 今は逃げるのが先決だ!」  意識を正常に取り戻したのか、繁はこちらを見つめ、小さく頷いた。  しかし、背後では低い唸り声を発しながら、こちらに近づいてくる気配がする。  声は犬のようでありながら、低く、また細かく震えていた。    「そのバット貸せ! 繁、お前は三春を連れて逃げろ、いいか!? お前なら三春を担いで走れる。 俺もすぐに追いかけるから。」  「ちょっと! 何っているのよ。 鐘也も一緒に!」    「うるさい! いいから行くんだ! 繁頼んだぞ!」  コクコクと頷きながら、涙を浮かべた繁実は、暴れる三春を抱きかかえ、その場から走り去っていく。        
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