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だが、数日後、期末テストの数学の結果を見て彼女は愕然とした。絶対、間違いはないと確信していたのに92点だったのだ。けれども彼女は休憩時間になるとテスト用紙を持って敢然と席を立ち、健太の席へと向かった。
彼女は告白したあの日から今日まで悔しさをバネに見返してやろうと頑張ってきた間、敢えて健太と喋ろうとしなかったし、健太も常に気合が入っているようなその鋭い目が怖くて彼女に話し掛けられなかったので二人の交流は完全に途絶えていたのだが、この日の為の成果を誇示しようと立ち上がったのである。
「あの、私・・・」
彼女はいざ健太の席の前に来ると硬直して顔が強張り、あの濁声が嘘のようなか細い声を詰まらせた。
そこで健太は待ってましたとばかりに呟いた。
「良いんだ、見せなくても・・・」
「えっ?」
「僕はそれが何点だろうがもう良いんだ。」
「い、いいって、どういうこと?」
「僕、実は、もう前から石田が好きになったんだ。」
「えっ!」
「だから良いのさ。」と健太は言うと石田さんの方へ手を差し出した。「ちょっと見せて。」
彼女は感激のあまり震える手で恥じらいつつ健太にテスト用紙を渡した。
「凄いじゃない、92点なんて、僕なんか88点だぜ。石田の勝ちだよ!」
「えっ、ええ・・・」
石田さんは喜ぶべき信じられない状況にどう喜びを表現していいか戸惑っている。
「石田って死に物狂いで努力したんだろ!」
「えっ、ええ・・・」
石田さんはまだ戸惑っている。
「分かってたよ、あんな苦手だった数学の授業で積極的に手を挙げて、ずばずば答えてたもんな。それに君・・・」と健太も感激のあまり言葉に詰まって石田さんをまじまじと見ながら目が潤んで来て、「とっても細くなって、とっても綺麗になって、その努力も思うと、僕は・・・」と言ってまたも言葉に詰まったかと思うと、「石田は実質100点を取ったんだよ!」と叫ぶや大粒の涙をぽたぽたとテスト用紙に落とし出し、石田さんのテスト用紙を見る見るうちにべたべたに濡らして行った。
石田さんも健太にテスト用紙を渡してから既に目が潤んでいたが、内面まで良くなって女性らしくセンシティブになっていた彼女は、今までの努力が実って大願成就した喜びも相俟って顔を両手で覆って激しく咽びながら空知らぬ雨を滂沱として流し出した。
その様子を見ていた周囲の生徒たちは、どんな理由で泣いているのかは分からなかったが、にも拘らず感動せずにはいられなかったし、二人を応援したい気持ちで一杯になったから不思議の感に打たれるのだった。
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