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 健太は、やっと聞く耳を持ったかと思い、機転を利かしてこう言った。 「えっ、君、僕がガンダム描くとこ、僕の背後霊になって覗いてたのかい?」 「アハハ!何、言ってんの!直ぐ冗談で返すんだから!おもしろーい!あったま良いー!アハハ!あのね、実は私、遠目に見てたんだけど、菊江君に絵を見せて貰ったから知ったの。」 「ああ、そうだったのか。」 「うん、それでね、菊江君、とっても喜んでたわよ。」 「ああ、そりゃあ良かった。」 「うん、それでさあ、菊江君と感心して見てたんだけどさあ、やっぱり川上君って絵が上手なのねえ。だって陰影を交えて立体的に描いてあるしディテールまで巧みに描いてあるから私、すごーい!って何度も唸っちゃった。」 「へへへ、そうだろう。中々正鵠を指しているねえ。何しろ僕の描く絵は常に技巧を凝らしていて枯淡な趣が有る上に精緻にして気韻生動たるものが有るからなあ。」と健太が大言を吐いて大いに自画自賛して殊更に胸を張って、「アハハハ!」と派手に笑って見せると石田さんは意味が分からず、「かたんな趣?せいしにしてけいんせいごう?はあ~、成程ねえ~、それだけ上手って事ね。」と言い間違えて感心し、健太が猶も笑っていると、「私も絵が好きだから川上君みたいに絵を上手に描けたら良いのになあ~」と健太を羨望の眼差しで見つめ出した。それから彼女は或る目的を果たそうと健太が得意になって、「僕の絵、そんなに羨ましがられる程、上手いか?」と聞けば、「当たり前よ!川上君が描いたんだもん!」と煽て、健太が頭を掻きながら、「へへへ!」と照れ出せば、透かさず、「何、インド人みたいな顔して照れてるの。可愛んだから。」と更に煽て、健太が猶も照れ笑いしながら、「インド人って何だよ?第一、インド人は僕みたいに色白じゃないだろう。」と言えば、ここぞとばかり、「インド人って顔が整ってるからそう言ったの。」と尤もらしい説明を付け、健太がまあ、そうだろうと自惚れて頭をより強く掻きながら独り悦に入れば、それを潮に、「あっ、そうだ。」と言いしな手を打って、「ねえねえ、私にも絵を描いて欲しいんだけどさあ、私、ひよこちゃん、大好きだから、ひよこの絵、描いてくれない?」と突飛な注文をする。と同時に健太は照れ笑いを止め、「何、ひよこの絵?」と聞き返す。
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