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「ああ、そうだった。ひよこちゃんの絵を描くんだったな。」と健太は答え、机に向かい、消しゴムで前見返し一面に描いたうんこを消し、鉛筆を取って、やっと石田さんの注文通り前見返し一面にひよこの絵を描き出すと、「うわあ!」「いいそれ!」「かわいー!」「おもしろーい!」「うまーい!」「ちょーかわいー!」等と石田さんが歓声を上げ、嬉々として喜ぶので、すっかり調子づいて、「♪たまごから生まれたひよこちゃんじゃ、ひっひ、ひーよこちゃんじゃ、ひよこじゃ、ひーひー!」と漫才コンビ「てんやわんや」のギャグを捩って唄いながら描き上げ、「できたー!」と戯けた調子で石田さんにノートを差し出す。  石田さんは笑いながら受け取ると、「うわあ!すごーい!うまーい!かわいー!これ、お宝にしよー!ありがとう!川上君!」と言ってノートを抱き締め大喜びする。そして俄かに神妙になり、「ところで、川上君。」と言うや、逞しい体を恥ずかしそうにくねくねさせ出し、「あのー、私、実は、そのー」と言って更に恥ずかしそうにくねくねさせたかと思ったら、ぴたっと止めて、「川上君の事が前々から好きだったの。付き合って貰えますか?」と思いの丈を一気に吐き出し告白して来た。  健太は石田さんが自分に対し圭角が取れてからは其の器量に然程、嫌なものは認めていなかったものの、「えー、んー、ああ、そうか、まあ、急に言われてもなあ・・・よく考えてみないとなあ・・・」と言葉を濁らせた上、傷つけずに断る巧い手はないかと思案した結果、石田さんのハクション大魔王発言を思い出してこう言った。 「あっ、そうだ、今度の数学のテストさあ、僕も100点目指すから君も100点目指せよ!それで君がもし100点取ったら付き合ってやってもいいぜ!」  これは自分にとって無理難題に等しいことだったので石田さんは事実上の謝絶の言葉と受け止め、只々がっくりと項垂れた。
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