けものフレンズ2−R2

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けものフレンズ2−R2

 「綺麗なお月様だな。」キュルルは思った。満月からだいぶ欠けてはいるが、明るさは充分だ。涼しい風が頬をなでて、さっきまでカラカルと言い合いをして火照った気分を鎮めてくれるのを感じる。  セルリアンの大群と闘って、また三人で旅を続けようと約束し合ったのに、もう喧嘩してしまった。切っ掛けが何だったのかさえ、もう覚えていない。ただ、行ったことのある海側のルートを通って、カイジュウエンに寄って行こうと自分が言い張ったのが悪かったんだという自覚はある。  いつも自分は言いたいことを言い過ぎるんだ。一人になると素直に反省出来るのに、なぜかカラカルやサーバルの前だと、つい意地を張っちゃう。そしてまたトラブルになる。頭では解っているのに、どうしていつもこうなるんだろう…。  まあいいや、とにかく明日、朝一番に謝ろう。キュルルはそう思い直すと、頭を振って嫌な思い出を追い出し、つい先日の、あの楽しかったペパプのライブをまた思い返した。ライブが盛り上がったのは、ただセルリアンの大群を退けたと言う事だけが原因ではない。会場を整理しようと瓦礫を片付けしていた時に起こったハプニングが、皆の気分を最高に盛り上げてくれたからだ。  目の前の瓦礫が突然ガラガラと動き始めた時は、まだ倒し切れていないセルリアンが残っているのではないかと、その場の全員が身構えた。続いて、そこからぴょこんと何かの頭らしきものが飛び出したあの時の、普段落ち着き払っている様に見える、かばんさんが思わず上げた「食べないで…」の動転し切った叫び声、あれは今でも想い出すたび笑いがこみ上げてくる。  そして、それに続いて皆が思わず上げた驚嘆の声もまた、今でも耳から離れない。  そこに居たのはアムールトラ。だが、全身に虹色のキラキラした光を纏ったその姿からは、あの猛々しかったビーストの面影は微塵も感じられない。どころか、ふた回りほども外見が小さくなった彼女は、突然弱々しい声で泣き始めたのだ。「ここはどこ?私はどうしちゃったの?」か細くも可愛らしい声で泣くアムールトラ。その身体を優しく瓦礫の中から抱き上げるかばんさん。  アムールトラは身を捩り、更に激しく泣きじゃくる。「あたし…何も知らない…何も出来ない…!」それを聞きながら、更に力を込めてその身体をしっかりと抱き締めながらかばんさんは言ったっけ。「大丈夫。フレンズによって得意なことは違うから、私が全部教えてあげる…どこにだって連れて行ってあげるから…。」サーバルもカラカルも、自分の事のようにニコニコしながら、その光景を眺めている。  「どうやら再フレンズ化したのです、助手。」「再フレンズ化ですね、博士。」賢い鳥コンビがいつものように素っ気ない口調で言う。いつも思うけど、フウチョウの二人と喋り方も思わせぶりな所もそっくりだ。でも再フレンズ化って何の事だろう?  「お前は何も知らないのだな。」博士がそう言いながらも教えてくれたのは、フレンズが何かの原因、例えばセルリアンに飲み込まれるなどの原因によりサンドスターを使い切ってしまうと、フレンズは一旦、元の姿に戻ってしまうらしいという事。  「その姿でサンドスターを浴びることで、再びフレンズの姿に戻る。それが再フレンズ化なのです。」博士が重々しく言う。「でも、再フレンズ化がいつ起きるのか、それはその時の周囲のサンドスター濃度によって異なるのです。」  「鈍いお前には気が付かなかった筈なのです。昨夜から、またこの島の火山からサンドスターが吹き出していたことを。」ここぞとばかり、助手が畳み掛ける。「夜にサンドスターの塔が出来ていたこと、お前が知らない筈がないのです。」確かに、言われてみれば虹色に光る柱が夜空を貫いていたっけ。キュルルは今更ながら思い出すのだった。  セルリアンの脅威はひとまず去り、新しいフレンズの命も芽生えた。ホテルを喪って意気消沈していたオオミミギツネ達三人も、泣き疲れて眠ってしまったアムールトラの可愛い寝顔を見て元気を取り戻した様子だった。そして始まった夜のペパプライブ、盛り上がらない理由はどこにもなかったのだ。  しかし、「サンドスターを使い切る」と言う言葉には、まだ触れられていない別の意味があるように思えてならない。それは何だろう?キュルルは考え込むあまり、つい辺りに注意する事を忘れてしまった。だから、いきなりもの凄い力で首根っこを掴まれ仰向けに引き倒されても、「あっ!」と小さく声を上げることしか出来なかった。  そして、周囲はそれ切り、水を打ったように静まり返ったのだった。
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