けものフレンズ2−R2

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 「ええっ?イエイヌちゃん、本当に私のこと覚えてないの?」ともえ、と名乗った少女は、あからさまに不快そうな表情を浮かべて言う。そう言われても、イエイヌはなんと返答して良いのかわからない。困っていると、人指し指を顎に当てて考えていたともえが、パッと明るい顔をして叫んだ。「そうだ、絵、描いて渡してあげたよね、あれ、持ってるでしょ?」  「そっか!」イエイヌも閃いた。ほとんどひとっ飛びにソファから金庫に飛び付き、もどかしげにダイヤルを回し、何度も繰り返し見た絵を取り出す。「ちょっと待っててね。」真剣な口調でそう言うと、イエイヌはゆっくりと深呼吸しながら、精神を集中した。実を言うと何回か、同じ事を試した事がある。でもあれは、単に人恋しくてやっただけの事。今度とは訳が違う。  イエイヌの体が虹色の煌めきを帯びる。左右の色が違う目が金一色に輝く。ともえは何が始まるんだろう、とワクワクしながら成り行きを見守っている。  息を深く吐き、集中力を極限まで…よし、今だ!野性を解放しながら、イエイヌは手にした紙を手のひらで包み込むようにして、鼻を擦り付けるように一気に息を吸い込んだ。紙の上に残留した匂いの一分子たりとも逃がさない決意を込めて。  研ぎ澄まされたイエイヌの脳裏に、少なくとも四、五人の別々の人間が触れた痕跡が浮かび上がる。三人はともえの血縁。そして一人の全く違う人物の匂い。そして…  次に紙から顔を上げた時、イエイヌの表情は今まで見た事がないほど晴れやかだった。「さあ、一息入れてお茶でも飲みましょうか。ともえさん。ようこそお帰りなさい、私のおうちに。」  ーーーーーーーーーーー  「美味しかったぁー。ごちそうさま!そうだ、イエイヌちゃん、フリスビーあるよね、お外で遊ぼうよ!」  「は、はいっ!」  元気な声が溢れるイエイヌの家。それを見下ろす高い木の枝に、2羽の黒い体を持つフレンズがとまっている。  「やれやれ、厄介なやつが二人に増えたと言う訳か。…これからどうする?」カタカケフウチョウが問い掛ける。  「どうもしないさ。我々の生まれた目的を果たす…彼らを見守るだけだ。」カンザシフウチョウが答え、顎でイエイヌの家を指し示す。「彼らも、そのうち旅に出るだろう。いつまでも、ここに留まっていられる様な子たちではあるまいよ。」  「目的地は…やはり?」「ああ、私達が生まれた、あの場所だ。どちらも、あそこに戻ろうとするだろう。それからの事は…それからの話だ。」  遠く離れた場所にある、キュルルが生まれたカプセルのある廃墟。そのカプセルの中に、人知れず収められている銀のペンダントがある。そこに、2羽のフウチョウがモチーフとして刻まれている事を知るものは、彼女たち以外には誰も居ない。  少なくとも、今はまだ。 <おわり>
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