Change and Constancy

1/3
2人が本棚に入れています
本棚に追加
/3ページ

Change and Constancy

「それ、もういらないんじゃない?」  彼女はさらしをほどく手を止めない。 「2019年よ。女が道を歩いていても誰も文句は言わないよ」  するり、と取れた布を畳むと、私を見てどこか皮肉っぽく笑った。 「確かに君の言うことは尤もだけど、そうもいかないからね。やっぱり女に思われるのは、現代でも都合が悪いよ」 「そう。今まで大分変わったけど、そこは変わらないのね」  私はテーブルの上の紅茶を飲む。 「夜に紅茶飲んでいいのかい?」 「あぁ、これ、カフェインレスよ」 「へぇー。そんなのあったんだねぇ」 「ある意味技術進化、かな。最近の技術の進化はすごいね。100年前とは大違いよ」 「100年前って何があったっけ?」 「1919年……戦争が終わった年ね」 「そうだっけ?」 「ええ。1919年6月28日、ヴェルサイユ条約が調印されたよ。新聞読んだの覚えてない?」 「流石に日時までは覚えてないよ。記憶力悪いから」 「そう?」 「うん。僕が覚えているのは、とある家族の旦那さんが、もう2度としないと誓ったのに、また不倫してて、専業主婦で3人の子どもを持つヒステリーの奥様に恨まれている、ってことくらいかな」 「……別に悪くないじゃない。今回のターゲット?」 「そう。この仕事してると週刊誌いらずで助かるよ。浮気と殺人とドロドロは、いつになっても、醜い人間の最高のゴシップだね。笑える」  僕はエッグ・ノッグ飲もうかな、と彼女はブランデーと牛乳を取り出す。 「そこは変わらないのね」 「変わって欲しいの?」 「できれば」 「あはははは! 多分無理だと思うよ。残念!」 「どうして?」 「しっかりと自分を持たない人間は、他人をこき下ろしたくなるものだからさ。そして、この世界にはそういう人間がごまんといる」 「確かにそうだけど」 「本当にウツクシイ人は一握り……もいないね。そういう意味で、君は非常に珍しいよ」 「それはどうも」  彼女はすまし顔で、湯気の上がったカップを掲げた。私も笑って、掲げ返す。 「……変わらないでね」 「言われなくとも、私は私のままだよ」 「多くの人は、そうもいかない。だからそこは変わらないんだろうね」  私は寂しさを隠せないまま笑った。一方彼女は屈託のない笑みを浮かべたまま、口の端を蔑むように歪めて、窓の外を見た。 「変わることっていいことだと思う?」  彼女はカップをテーブルに置き、ソファに座る。私の隣。いつもの場所。 「ものによるよ」 「じゃあ変わらないことは?」 「わからない。比べようがないもの。いいか悪いかって、何かと比較する必要があるでしょ? ずっと同じ、っていうのは安心できるけど」 「……そっか。あぁ、そうか」 「……何?」 「可能性があるのは、いいことだね。それにずっと同じ、それじゃつまらない」 「それにあり得ない」 「そうだね」 「いつも希望と恐怖が混じってるのは、その時にはそれがいいことか悪いことかわからないからかな」 「そうね。誰も知らないことだから。でも、この世にわかりきっていることなんてない。そんなの、自分が死ぬことくらいだよ」 「……最大にして最後の変化だ」 「そうね」
/3ページ

最初のコメントを投稿しよう!