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小綺麗な黒のスーツを着て、シルクハットを持った男が目の前に座っている。 取調室に広げたコイツの持ち物。 ピカピカの銀色のアタッシュケースから出てくる様々な道具。 トランプ、タロットカード、白い手袋、小さなシルクハット、コイン、コップ、ボールいくつか、黒いマジック、スケッチブック、黒いハンカチ、青いハンカチなどなど。 コイツの胸ポケットに入ってたのは、何も書いてない黒い手帳と黒いボールペン。 黒い携帯電話、黒い財布。 免許証も保険証もないな。 ・・こいつ、身分証の類いを何も持ってない。 椅子に座った俺は聞いた。 「名前は?」 「・・・・。」 俺の目をじっと見ながら、ニッコリして黙秘かよ。 よくみると結構なイケメン。 女ならドキドキするだろうな。 俺はさらに聞く。 「職業・・手品師、か?」 「・・・・・・」 「・・・・。はあ。何も喋ってくんないのか。」 勘弁してくれ。 「安田(やすだ)先輩、大丈夫っスか?」 自販機で、後輩が声をかける。 「須藤(すどう)か。 あの手品師、ずっーと黙秘してんだ。 もう2時間あんな感じだ。 アイスコーヒーはちゃんと飲むんだが。 名前さえ言って、身分さえわかれば家に返してやれるんだがな。」 「あの人、身分を証明するもん持ってないんですよね?仕方ないんじゃないんですか。 怪しいですよね、それだけで。 しかも第一発見者!「いきなり燃えた」なんて電話してきたらしいけど怪しすぎ。」 須藤はコーヒーをすする。 「第一発見者が怪しいなんて、古いぞ須藤。 ・・せめて名前は言って欲しいんだよなあ。」 俺もコーヒーを飲んだ。
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