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道中で一曲
暖かい風が春の訪れを感じさせる。
草原に続くあぜ道の先には薄らと山が見えるが、それ以外は何もない。
道に迷うことはない。が、延々ともいえる変わらぬ景色にうんざりしてくるのも、また心情だ。
「あ~~、疲れたぁ。そろそろ風呂に入りたい……」
都合よく転がっていた平ための石に腰を下ろすのは、十代半ばくらいの少年だ。
全体が黒髪なのに横のモミアゲ部分だけが白いという奇妙な髪色をしている。瞳は黒く一般的な色であり、顔立ちが整っているのため、奇妙な髪色もあまり目立つことはなかった。
寧ろ、美少年なら神秘的要素も当たり前。という概念が、この国に浸透しているのか分からないが、そこまで阻害されることはなかった。
疲れで項垂れる少年の頭にタオルが掛けられた。
「お……? サンキュな、グド」
見上げれば、巨体で醜い容姿の男が立っていた。
名前は分からない。とある施設で薬漬けになっていたところを助けて以来、懐かれて行動を共にしている。
薬漬けの後遺症で、ロクにしゃべることはできないが、常人以上の力があるため、旅の荷物係を買って出ている。
少年は、一日の終わりにいつも男――グドに「荷物を持ってくれて、ありがとう」と伝えており、グドはそれが何よりも喜んでいた。
薬漬けの自分が誰かの役に立てること、何よりも少年がグドを人間扱いしてくれることが何よりも嬉しかった。少年に伝える術はないが、グドは恩返しの気持ちで常に一緒にいるのだった。
「グド、お前も疲れてるだろ? 座ってな」
「う〝」
グドは身体ごと左右に振り拒否した。
何かあったとき、真っ先に動いて少年を守りたいのだろう。
グドの気持ちを尊重し、少年はそれ以上、言葉を重ねるのを止める。
代わりに、背中に背負っていたキタラを取り出し、弦をはじく。
音が空高くに響き、少年は笑みを深めて奏で始める。
『懐かしい故郷 優しい思い出
永遠がボクたちを導く
深い森の奥 山々に囲まれた街
忘れることのない郷愁
歩いてきたボクたちには自覚はない
離れていくことの恐怖を
薄れていく記憶を
けれど、ボクたちは進む
優しい未来、信じて
送り出してくれた母を想う
いつかボクたちは大人になりゆく
忘れることのない子供時代
小さな宝箱に詰め込んで
遠くの地を見に行こう
恐れず、前へ進み行こう』
ゆっくりとしたテンポで、低い音を長く続くように弾いて終わる。
少年は顔を上げると、グドは嬉しそうに両手を叩いて喜んでくれた。
「作詞作曲、天才美少年パルサ。タイトルは、そうだなぁ………『旅立った君へ』かな」
少年―パルサは自信あり気に胸を張って笑った。
グドは、うんうんと首を縦に振って同意してくれる。
「さてと、休憩の中の一曲も終わったことだし、次の町を目指して行くかな」
「あ〝、う〝」
パルサはニッと笑みを深めて、キタラを背負い直すと歩き出した。
まだ先は見えない。
それでもパルサはグドと共に、大好きなキタラを持って歩いていくのだった。
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