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さようならはアッサリと
橋の修理が本格的に始まったのは、翌日の昼頃からだった。
グレイス隊長が、第二王子直々の言葉と言う触れ込みで、各町や村に通達すると、河の前にはあっという間に数十人の大工たちが集まって作業に取り掛かってくれたのだ。
「集まってくださり、ありがとうございます。謝礼金は私の部下に預けておきますので、終わったらお受け取りください。後、足止めを喰らっている方々にも僅かながら、食料提供させていただきますのでお受け取りください」
ミルキは部下に指示を出し、足止めを喰らっている人々に食料を分け与えた。
食料を分けて貰った男性は小さく舌打ちをする。
「ちえっ、金じゃねえのかよ。ケチだな」
「文句言うなら貰うなよな。本来、その食料はお前たちに配られるものじゃなかったんだぞ? ミルキさんが無理を言って渡してあげている善意を棚に上げるな!」
スパンッとパルサは平手で男性の頭を叩くと、男性はカッとなり拳を振り上げるが、それと同時にグドに睨まれ、渋々と腕を下げた。
「……お前、良い性格してるよな」
「そうだろう。優しくて、気前がよくて、男気があるオレ最高!」
「そうじゃねえよ!」
嫌味を言っても全く効いている様子のないパルサに男性は脱力し、肩を落とした。
パルサは貰った食料の中からロールパンを二つ取り出して、一つはグドに分け与え、もう一つに齧りついた。
ふわふわのパン生地の中にほんのりと甘みがある。これならバターやジャムがなくても三つは食べられそうだ。
黙々と粗食を続けるパルサを見上げ、男性は自分もロールパンを齧った。
「なあ、おまえの歌って王室御用達なんだろ? なんで専属楽師にならないんだ?」
「ん~~? 無理だから」
「なんで? 王子様方に認められてるのに?」
パルサは最後の一口を口に放り込むと、両手を叩いてパン粉を払った。
「無理だから。オレが専属楽師になることは一生ない。それに、オレは根無し草の旅芸人の方がよっぽど性に合ってるんだ。わざわざ堅苦しい王室なんかに行きたくないね」
ベッと舌を出して手首を振るパルサに、男性は呆れ半分の苦笑を交えて頭を掻いた。
「おまえ、変わってるよな」
「美少年だからな」
「そこ関係あるのかよ」
男性が今度こそ声を出して笑うと、パルサは食料袋をグドに渡して男性から離れていく。
その様が、自然過ぎて男性は見送りかけた。
「あ、おい!」
パルサは首だけを後方へ向け、片手を振った。
「それじゃあな。また会えたら、その時はご贔屓に~~」
男性が背後でまだ何かを言っているが、パルサは全て無視した。
しみったれた別れなど必要ない。また会う時は会うのだからーー。
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