3人が本棚に入れています
本棚に追加
貸本屋にて
『むかしむかし、精霊と人間が仲良く暮らしている時代がありました。
精霊は人を、人は精霊を守る存在でした。しかし、その関係は長くは続きませんでした。
精霊の力を悪用する人間が現れ、精霊たちは悲しみのあまり自らの姿を消してしまったからです。
精霊のいない世界は混沌とし、作物は枯れ、太陽は雲に隠れ、謎の疫病が逸り、人々は地上で暮らしていけなくなってしまいました。
そんな時、一人の若者が『精霊石』と呼ばれる5色に輝く石を持って現れました。
若者が、『精霊石』を小高い山の上で掲げると、空が虹色に包まれ、世界に安寧と平和をもたらしました。
『精霊石』は精霊から信頼を受けたものにしか使えない不思議な石でした。
若者は精霊たちと、とても仲が良かったため友情の証として貰っていたのです。
世界に平和をもたらした若者は人々に乞われて、王となりました。
王となった若者の両腕には、『精霊石』が埋め込まれた金色の腕輪を五つ、王の証として若者の腕に填められていました。
王となった彼は人々から慕われ、人々に安らぎと平和を約束しました。
そして『精霊石』の填められている腕輪は、彼の後継者に着々と受け継がれているのです。 』
パタンと、本を閉じてパルサは笑みを深めた。
「分かりやすい歴史書だなあ」
ルナイト王国の建国神話を上手くまとめられた本に、パルサは感嘆の言葉を吐く。
「本当なら、ここに前王との泥沼な戦いや、若者の愛した女性の死とか色々なエピソードがあるけど、上手く添削されている」
流石は子供向けの教科書だ。
パルサは本を棚に戻して、脚立を降りた。
棚の高さは優に二階の閲覧室が見えるほどだ。この貸本屋は二階建てで真ん中が吹き抜けになっており、吹き抜け部分に巨大な本棚が背中合わせに立っているのだ。
一階は雑誌や多数の娯楽本、受付があり、二階全体が閲覧室になっている。
巨大な本棚の上部のほとんどは誰かの研究書やら、学校の教科書といった類だ。
暇つぶしに読むのなら、娯楽本よりもこちらの方が面白い。
「綺麗な真実だけをくり抜いて後世に伝える。現実にあった些末な諍いなんてなかったことにされるんだよなぁ」
パルサは誰に聞かせるでもなく呟き、貸本屋を後にする。
いい暇つぶしになった。
やはり、旅の醍醐味はこうでなければいけない。
「さあてと、夕方のお仕事のために体をほぐしておくかなっと」
腕をウンッと伸ばした彼の左腕には、金色の細い腕輪が填められていた。 中心に埋められている緑色の宝石が夕日に反射して輝いていることに気付くものは誰もいなかった。
最初のコメントを投稿しよう!